・視察内容
先進地視察として熱海市に赴き、熱海市観光建設部観光経済課産業振興室 小山みどり室長 に説明を頂いた。
熱海市は人口38,000人、一般会計200億、財政力0.91、面積61平方キロメートル、伊豆半島北東部に位置する伊豆箱根温泉群の中心的都市である。都心から新幹線で40分というアクセスの良さを生かした国際観光温泉文化都市を標榜している。観光資源でもある熱海梅園は明治政府初代衛生局長、長與專齋の提案により設置されたという縁のある都市である。昭和60年代は人口5万人だったのだが、人口減少が徐々に進んでおり高齢化率は42.1%と県内第一位。生活保護率も1.69%と県内2位、修正率は1.22で県内23位と最下位である。
古くからの温泉地としてのイメージが定着しているが、観光客数もピーク時530万人(昭和50年代)から269万人(平成24年度)と苦戦しているようだ。ただ、平成23年度は247万人と底を打ち、回復傾向にあるということだった。駅前の商店街な平日昼間にも関わらず観光客の賑わいがあり、市の施設もリニューアルが進んでいるということで更なる増加につなげたいとの事だった。
A-biz設立の経緯は平成23年、経済産業省から副市長を招聘したところから始まる。就任当時は36歳と全国最年少の副市長であった。熱海市の経済産業振興政策に「営業する市役所」を掲げ、・民間投資の呼び込み・企業とのパートナーシップ協定・A-biz設置という3つの施策を展開された。副市長はF-biz小出氏との知遇を既に得ていたという。
A-bizは特に専用の部屋等を設けず、市の部局の一部に設置されている。人員は商工会議所職員が1名、市の担当職員が3名というおおよそ重厚とは言い難い布陣である。主たる費用はF-bizに顧問料を年間85万円、商工会議所へ職員の派遣を受けている為、年間50万を支出し年間135万円。F-bizへは設立時に商工会議所職員を1か月間研修に派遣、加えて月一回の相談の指導・助言を受けているという。
当初は研修に市の職員を派遣する予定であったが、F-bizが他の自治体から数千万円(富士市においては7000万円)という相応な委託料を受けている関係上、自治体職員への研修は公平性が保てないとのことで商工会議所の職員を派遣する事になったという。
相談件数は2年間で39事業者、124件、広告換算値400万円と決して多いとは言えない数字であるが、小出氏は「もっとも成果の出た事業の一つ。熱海に変革をもたらした」と絶賛。コストをかけずに知恵を出す、という小出スタイルで商品開発を行い売上アップにつなげている。熱海市は温泉保養地という事もあり別荘が多く、著名人が居を構えている。中でもソムリエとして有名な田崎真也氏がボランティアで認定審査員を務める、地域特ブランド「A-PLUS」の売り上げも好調だという。
公平性を重視する行政が個々の店の売り上げアップに係わるのは異例と思われがちだが、副市長は「市職員の本当の仕事は法令に基づく事務作業だけではない、熱海の強みを知り、熱海を売り出すことだと意識してほしい」と話している。
また、コンサルティングを通じて、事業者のマインドに前向きな変化が見られるとのことだった。
産業支援センター設置について既設の商工会議所との棲み分けが取りざたされるのは宿命である。小山室長によると商工会議所は会員制であり主に融資・記帳・補助金の相談といった明確な目的があっての利用が中心であるのに対し「最近売り上げが上がらなくて・・・」という身の上相談的なところから始めるので、事業者として敷居の低さがあるのではないかと感じているという事であった。
・所見(事業採択の可否も含む)
これまで数々の産業支援センターを視察してきたが、熱海市は予算を抑えつつ設置するというケースである。ハコモノの有無に関係なく設置ができる事は大いに参考になる。
ただし、ハコモノが有ろうが無かろうが、産業支援センターの成否にかかる最大の課題は「人材」である。情熱とビジネスセンス、中小零細事業者と寄り添う優しさと粘り強さを持った支援員を配置できれば、支援センターの将来は明るいものとなるだろう。熱海市では小山室長がその役割を担っていると確信した。失礼ながら時間を忘れて(120分!)熱海市や相談事例を熱心に説明されるその態度からは熱海市への郷土愛、仕事への愛を感じた次第である。
帰りしなA-bizで開発されたという商品を買い求める為に紹介された店に立ち寄った。その折、小山室長から御礼の電話があった。地域の事業者との良好な関係が伺える。帰ってPCをあけると御礼のメールが入っていたことに再び驚かされた。聞けばメディアには24時間対応するという携帯電話を持った職員もいるという。熱海市職員の「営業力」に大きく感動した有意義な視察であった。
東京都豊島区「としまビジネスサポートセンター・すがも事業創造センター(S-biz)」は他の議員が担当します。