三重県伊賀市「議長・副議長立候補制度」

伊賀市は平成16年、一市三町二村が合併して誕生した。北は滋賀県、西は京都府、奈良県と接する県の北西部に位置する市である。人口規模は大村市と同程度だが、面積は558㎢と約4倍、南東部を布引山系に囲まれた盆地で、機械系業種を中心とする内陸工業都市でもある。伊賀市は議会改革に平成18年から取り組んでおり、議会運営委員会の視察は二回目。6年ぶりの訪問となったとのこと。当時の視察内容を参考に大村市でも議会基本条例が制定されている。
今回の視察では来年4月地方統一選挙以降の議会運営を視野に入れ、大村市議会がより市民に開かれた議会となるための手法の一つである議長・副議長選挙制度の導入について学ぶため伊賀市議会を訪れた。

伊賀市議会では役員(議長・副議長・監査委員)の任期は1年と定め、毎年選挙をやっているとのこと。立候補については3名以上の推薦人が必要である。この部分に関しては意見が分かれるところであろう。1年という任期では所信で述べるような公約も実現する為の期間としては短いと感じるし、事務局も毎年議長が入れ替わると事務負担が大きい、市民にも定着しづらい、ということであった。ただ、三重県内の自治体では1年任期が一般的だとのことであった。
推薦人を3名以上とすることについては機会の平等という観点から考えれば適切で無いかもしれない。しかし議決機関の長であり、市民に向けて議会を代表する事も多い議員を選出する手続きとしては許容できる範囲であると考える。

立候補の手続きは届け出と共に所信を事務局に提出。所信は各議員に送付され、後日公開の所信表明会で表明される。所信表明は5分以内、それに対する質疑は10分以内。議長選挙は法の規定が無いため、本会議の休憩中に行われる。公開が前提とされる本会議であるため理事者の出席及び市民の傍聴も可、となっている。立候補者以外には投票しない、という申し合わせになっているが、それが守られない事もあったという。無効にする規定が無いため有効票として取り扱ったことがあるそうだ。

所信における質疑については意見の分かれるところであろう。所信は選挙という洗礼を受け、有権者の付託を得た議員各々の信ずるところである。所信表明では議長及び議会の在り方を論じるのであるから、質疑を行うのはなじまないように感じる。伊賀市でも活発な質疑は行われていない、ということであった。ただ、質疑という議論を通して、所信の不明瞭な点があればそれをより明確にできることや、議員としての力量を見極めることができるという意義もある。個人的には有っても良いと感じている。
また、議長選挙を見たいがために傍聴する市民は見当たらないということであった。

議長選挙は合併当時から開催しており、議長選出における会派間の水面下の駆け引きを排し、市民に分かりやすい議長選挙とする、という目的があったが、限られた議員数の中での選挙の為、議員会の事前の調整があるのは否めない、という事であった。
議長は議会全体を代表し、市長と対峙する議決機関の長という役割を担う。所属政党や会派という連携を持って議会を構成する議員同士が選出するという前提が有るため、誰でも良い、という訳には行かないだろう。立候補における所信(=公約)だけを判断材料とすることは難しいだろうし、議会を代表するにふさわしい良識や行動、経験を有する候補は誰なのか、という事を考えなければならない事を鑑みると議員間の調整が行われるのは必然であるし、伊賀市や翌日訪れた知多市でも事前の調整は行われている、との事であった。

議長の再選は妨げないということになっており、連続再選された議長はいないとのこと。ただ、期間をあけて2回議長に就任した議員が1名のみいた。副議長を経験した後、議長へとなる議員も見られるとの事であった。立候補者数は議長選挙で最多4名、副議長最多3名、例年2~3名で選挙をやっており、今年はどちらも1名のみで、指名推薦になったとのことであった。

その他の質疑では、大村市でも先日開催された議会報告会について、住民側からは議員との距離が近くなった、多くの議員の意見を聞けて有意義だ、と好評を博しているという。開催回数はほぼ2倍で、議会からも住民にテーマを提示することがあるそうだ。あくまで私見だが、大村市の市民と議会の集いについては、開催の是非を含めて疑問を抱いているところである。この違いは地域性なのか、それとも議会側に原因があるのかと考えさせられた。
伊賀市は合併当初、当初在任特例で定数78名であったが、初改選時に34名となった。
その後も34名から28名、28名から24名へと定数を削減している。更に減らしたほうが良い、という声もあったが、周辺部の声が届かない、増やして欲しいという意見もあるとのこと。今後は議会活性化推進会議を立ち上げ議論するということであった。
また、新市長になり、反問権を市長自らが乱発しているそうだ。既に決議されていた市庁舎の建て替え案を変更するとして、住民投票にかけるなど(過半数に届かず不成立)混乱が垣間見えた。

以下の表は今回視察に訪れた両議会へ事前にアンケートとして送付していた回答の一覧。

①三重県伊賀市 ②愛知県知多市

・導入の経緯
①会派間の水面下の駆け引きを排し、市民に分かりやすい選挙とするため。H16,11~
②議会としての情報発信、選出過程の透明をめざして。H25,3~

・所信表明を行う会議(実施時期・場所)
所信表明会(知多市:所信表明演説会)(本会議休憩中・議場)

・申出先・申出方法
議会事務局へ文書にて

・推薦者の有無
①有り(3名以上) ②無し

・会議の進行者
改選直後は年長議員(立候補者除く)改選直後以外の場合は前議長

・任期
①1年 ②2年

・所信の発言順序
①抽選(くじ) ②届け出順

・発言時間
①5分 ②10分

・質疑
①答弁含め10分以内 ②無し

・推薦演説
無し

・正副議長候補の所信表明
分離開催

・所信表明を行わなかった議員への投票
有効

・一般傍聴

・執行部の出席
有り

・記録の作成
①有り ②無し(録画は有り)

・記録の公開
有り

・公開方法
①インターネット・ケーブルTV ②インターネット

※回答が分かれていない欄は共通。

所  見(事業採択の可否も含む)

議長の選出過程についての市民のイメージはどうであろうか。議会のパワーバランス、当選回数、議員同士の調整、順番で回ってくる・・・あまりポジティブなイメージとは言えないのではないだろうか。議長の役割も時代の変遷とともに変わるものであろう。名誉職であった時代から議会活性化を目指すリーダーという側面が生まれているのではないだろうか。時代の要請に答えつつ、議会の存在感をより大きくし、情報発信を強化する事は議会の永遠の課題である。
議長の選出過程の透明化もその一つであろう。議会活性化を促進する一助として、議長・副議長選挙制度を次回改選時から導入し、より市民に開かれた議会を目指すべきと考える。

文責:北村貴寿

伊賀市は忍者を観光資源として大プッシュ。
写真は市内を走る松本零士デザインの忍者列車です。車内やホームにも忍者デザインで溢れていました。
愛知県知多市については他の議員が担当します。

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