東京都三鷹市「SOHO CITYみたか」構想と戦略

「起業しやすい街づくり」を目指すための先進地視察として、東京都三鷹市は「(株)まちづくり三鷹」に赴き表題について経営事業部 吉田巳里子氏より説明を受けた。三鷹市は人口18万人、一般会計663億、財政力指数1.075、東京都のベッドタウンである。

意図的にSOHOCITYみたかを実現する為、SOHOワーカーの集積を図ってきた。昭和初期は中島飛行機の関連産業、自動車産業、測定機器の工場が集積した町であった。昭和40年代に宅地化が進むと同時に公害問題が発生。工場は市外の郊外へ移転、後継者不足等で産業構造が変化し都心のベッドタウン化が進んだ。都心に近いため高付加価値商品の販売は少ない。商店街の主力商品は日用品等単価が低いものが中心である。
市の自主財源の約50%が個人住民税であった。市民が高齢化し、定年を迎えると税収減になる危惧があった。そこで、定年のない個人事業主を三鷹市に集積しようと考え「SOHOCITYみたか」のまちづくりを展開していくことになる。
先ずは300人のヒアリングやインターネットアンケート等を行いSOHO事業者のニーズをくみ上げ、平成10年財産法人三鷹市まちづくり公社を設立、同年SOHOパイロットオフィスを設置した。小さな間取りで個人スペースとし、共有スペースをフリーとした。実費精算の共有プリンター・コピー。秘書機能(電話受付、郵便物収受等。費用は二畳ほどの1区画が一か月2万6千円から広いスペースになると18万5千円の家賃となる。9区画に57社の応募があり、現在も高い稼働率を維持している。翌平成11年、三鷹市とともにまちづくりを担う第三セクター株式会社として、都市施設整備公社・まちづくり公社を統廃合し設立。出資比率は三鷹市が98%であり、現在の社長は副市長が務めている。平成24年の総売上高は10億円。

第二の拠点として平成12年に「三鷹産業プラザ」を開館、駐車場、貸会議室、レストラン、カフェ、パソコンルーム、精密測定室などを備える複合型産業支援施設としてスタートした。駅前の中心市街地と近接し、市街地活性化の担い手としての役割も期待されている。この施設から500社以上のSOHOが生まれることになる。起業例として挙げられたのが、施設に入居するSOHO事業者の細やかな困りごとを受付が解決するビジネスサポートチーム㈲そーほっと。もともとボランティアをお願いしていたグループが起業した子育てコンビニ。シニアがシニアのスピードで教えるシニアPC教室をご紹介いただいた。
また、ICTを活用したまちづくりの担い手でもあり、市内の事業者協会と連携し、26社共同受注や相互事業の補完を進めている。主なIT事業として「Ruby」を使用したパッケージソフトを開発。学校図書館にシステムを導入し、大手ベンダー価格の半額で販売。保守は地域の事業者に委託しており、IT投資が地域内で循環するしくみづくりを進めている。

近年の取り組みとしてはコワーキングプロジェクトがある。仕事場の特定しないノマドワーカーの為の「ミタカフェ」を開始。月3,550円の会費とし、ワークスペースや応接スペース、実費共有プリンター等を設備し、ビジネスコミニティの創造と相互の協働を目指している。現在会員数は約100名。

センターにはビジネスサポート・コーディネーターを1名常駐させている。御年80歳、人格がにじみ出ている優しい人柄が感じられた。人生に定年は無いようだ。SOHO支援の基本コンセプトは「身の丈起業」借金ナシ、リスクを負わずに起業する支援。定年後の居場所づくりとして、ベンチャーとは一線を引いている。平成25年は身の丈起業塾から33名の創業をサポートした。
その他、起業を促すイベントとして、ビジネスプランコンテストやSOHOフェスタを実施している。
コンテスト初回は賞金100万だったが、30万へ減らしオフィス使用無料券や研修受講費支給などを企画している。

SOHO集積戦略の発端となった個人住民税の税収は減っていない。戦略が功を奏したと考えたいとのことだった。この施設で起業するのは子育てを一段落した女性とシニアが中心。若者は減っているそうだ。関連施設全体では80~90%の稼働率を維持している。
三鷹市から直接の運営費は出ていないが、ビジネス支援事業の委託を受けている。
駐車場駐輪場管理・施設賃料が収入源であり、産業施設に使用される建物の所有は中小機構と当社で半々である。建築費は中小機構が保有する1期棟は10億円、同社保有の2期棟もおおよそ同額とのことだった。財源は補助金・国1/2、都1/4、無利子融資、市が1億7千万出資している。

6.所見(事象採択の可否を含む)
財政・人口規模や地域性が大村市とは異なり、三鷹市のケースをそのまま当市の施策とするのは難しいだろう。しかし「身の丈起業」というコンセプトには大いに共感できるものがあった。今後設立が計画されるであろう「大村市産業支援センター」の主たる機能の一つとして、SOHO起業コーディネーター導入を推進するべきだと考える。
SOHO支援の理解と重要性を深めることができた意義のある先進地視察であった。

文責:北村貴寿

・群馬県安中市「碓氷峠鉄道文化むら」
・東京都国立市「国立ファーム」

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