会派視察「NPO法人起業支援ネット」


会派視察にてNPO起業支援ネットにお伺いし、久野美奈子代表理事にお話を伺った。
今でこそNPOは花盛りの様相を呈している。公益法人制度改革の発端となるような法人まで出現する始末であるが、20年前はどのような状況だったであろうか。NPOの制度は存在しないしインターネットも一部だけの技術「社会起業家」「コミニティビジネス」などという言葉さえなかった。女性の起業家が物珍しい時代ではなかったか。そのような時代、1992年からスタートした起業支援ネットは社会起業家の歴史を体現しているといっても良いだろう。

久野代表理事は既に二代目の代表である。創設者は久野代表の実母、生協の理事などを務める内「何かやりたい」という女性の輪が生まれたという。女性の起業家が物珍しい時代「事業を興す」という響きに感じるような大それたものではなく、お総菜屋さん、花屋さん、といった身近な事業の立ち上げから始まったとのこと。1992年に前身である「ワーカーズ・エクラ」が誕生し、1998年に「起業支援ネット」として設立、翌年にNPO法人格を取得し「仕事をおこす・自分をおこす・地域をおこす」をキャッチフレーズに身の丈起業やコミニティビジネスの支援に取り組んでいる。

自治体の政策的に生まれてきたものではなく、女性の身近な起業相談から自然発生的に始まった同法人は、近年耳にするようになった「起業コンテスト」や「起業の学校」といった先駆的な事業を設立当初から手がけていく。起業支援というと政策的な中小企業支援を想像しがちだが、「身の丈にあった起業」に主眼を置いており一言でいうと「敷居が低い」

同法人が入るビルもお世辞にも近代的とは言い難い。看板がなければ素通りしてしまうような雑居ビルであった。階段は急で狭くエレベーターは無い。1階のみバリアフリートイレがあるが、かなり年季の入った建物である。おそらく耐震構造ではないだろう。入居当時は壁のペンキ塗りやパーテンションも仲間たちと共に作り上げたとか。公立図書館との併設や財団が運営するビルに入居する産業支援センターをいくつも見てきたので、手作り感あふれる事務所には人間の体温を感じて居心地が良い。
当初は商店街の空き店舗を活用し拠点としていたのだが、所有者の都合で退去せねばならなくなり、かねてから居場所づくりをしてきた同法人の前代表が最後の仕事として小さな中古ビルを購入。作業は自宅で間に合うが、事務所機能や会議スペースが欲しい。部屋を借りるほどではないけれど、団体の住所を置きたい。といった小さな起業家達にスペースを月額6,000円にて貸し出している。
共有スペースにはプロジェクター、コピー機、PC、といった必要最低限の機器が備え付けられている。勿論Wifi完備、スペースの予約等はグーグルカレンダーにて管理、早いもの勝ちだとか。
「いらない本」ではなく「読ませたい本」を持ち寄った本棚のある1階スペースはカフェをやりたい、という方に短期間のシミュレーションカフェとして貸し出したりするのとのこと。最近はスナックにもなるとか。屋上でビアガーデンもやったりするそうで、そこかしこに暖かみや楽しみが感じられる。いわゆる政策主導で設立された閑古鳥が鳴いているインキュベーションルームとは大違いである。

資金的な余裕を感じられない事務所の通り、法人の運営についての恒常的な補助や助成は一切無い。久野代表曰く名古屋市は現市長のアドバイザーが原因で、NPOについての政策が10年遅れた、とか。人口が多すぎること、区に予算編成権がなく自治が進んでいないことも原因と思われるとのこと。法人の運営費は100名程の会員が治める会費と自治体の受託事業等に応募して賄っているという。

財源の柱にはならないが、理念の柱になっている「週末に学ぶ起業の学校」は本年で10年目を迎える。
カリキュラムは5月~11月で月2回の講義を定員16名で学んでいく。午前中に講義、午後をワークショップという基本スタイルで「守・破・離」というコンセプトに沿って進められる。学費は一括183,000円。
初期の受講者はほとんど起業を実現しており、大多数が、小規模なコミニティビジネスとのこと。それらは「カフェ・花屋・ケーキ屋・エステサロン」といった「夢実現タイプ」と「介護サービス・子育て支援・動物保護といった「社会課題解決タイプ」との二つに分類されるという。この取り組みを通して起業家たちのネットワークが形成され、起業者だけではなく、支援者とのさまざまな繋がりが生まれているという。

先駆者ならではの課題としては「追い詰められた起業」というタイプが散見されるようになったとのこと。社会や既存企業になじめず「うつ」や「引き籠り」になってしまう方々の働く手段としての起業であるが、福祉的な側面があり、難しいケースだということであった。
他には民間団体のバックオフィスとしての事業を数件受託している。これは法務や書類関係の業務を請け負う事業であるが、事業経験のない起業家にとっては力強い支援になるだろうと感じた。

6.所  見(事業採択の可否も含む)
民間の事業であり行政としての事業採択には結びつかない。ただ、恒常的な財源の裏付けがなく、20年以上起業支援に携わってきた同法人の蓄積したスキルや手法は括目に値するだろう。事実行政の視察もよく受けているということだった。
市議会では富士市産業支援センターの小出氏を迎えての勉強会を主催したところであるが、その対極のスタイルにあるように感じた支援手法は学ぶべきところが多い。政策的な産業支援とは対極にあるスタイルと言っても良いのではないだろうか。「何かをはじめたい」とぼんやり思っている起業家たちにこまやかにやわらかに寄り添う、といったスタイルのように感じた。
これまでの起業と支援をまとめた冊子の結びには「強力なリーダーシップを求める欧米型マネジメントに対して、複数の関係者が役割を分担し相互連携しつつネットワーク型の組織を形成する日本型のマネジメント」と同法人のスタイルを定義づけている。多様性は強みでもある。産業支援センターも含めて、おおむら市民大学の起業コースに講師として招聘してはどうだろうか。
説明やパンフレットの中に「志」という言葉が随所にあった。久野代表にとっての「志」とは何かと質問したところ、「未来の社会の為に自分という社会資源を使って成し遂げたい事」という回答を頂き得心した。
何事にも共通するのは「情熱」を持つ人が必要なのだと再確認した意義深い視察であった。

文責 北村貴寿

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