労働市場改革の経済学
正社員「保護主義」の終わり
八代 尚宏 (著)
派遣社員の規制で救われる労働者はいない。
それどころか更に経済の停滞を招き、失業率を上げる。
そんな主張を当ブログでも度々していました。
それらの論拠はネットや書籍、マスコミ、経営者としての皮膚感覚によるところ。
この本はそれを体系的に理解させてくれます。スラスラとは読めないかもしれませんが、理路整然としており気付きや思考のシフトにうってうけ。
現状の制度や慣行は誰を向いているのか?前提とは何なのか?
予想される反論に対する主張も冷静に述べられており、多様な観点とデータを元にした主張は得心できるものが多いと思います。
「派遣切り」という労働者の対立を引き起こしたのは労働政策の失敗であり、護送船団方式とマッチングした日本の雇用慣行が1990年からの長期停滞に対応できなかったのがそもそもの原因。
少子高齢化や男女共同参画についても触れてあり、エイジフリー社会の実現や、1980代まで続いたバブルといわれる高度経済成長期においても下がり続けた出生率を上げ、子育て政策は対処療法的なものに留まっており旧来の雇用慣行に原因があるという主張には新しい発見が多かった。
ただ、少子化や経済・雇用再生に具体的な成長政策が提案されている訳でもありません。
原因と現状を冷静に分析、効率・適正化する提案はあるのですが、未来へ向かう主張は感じられませんでした。
もっとも、そこまで述べると本のテーマを逸脱してしまいますし、未来志向の提案は現状把握が正確にできてこそでしょう。社会分析を冷静に行う為の内容としては十分です。
労働効率化の観点から夫婦別姓を容認する著者には反発もあるのかな、なんて思ってしまいました。
私は政策は改革リベラル志向ですが信条保守、そんなツボに反応してしまいます。
世界的な市場が開かれている以上、企業が国を選ぶ時代です。
規制に縛られた日本市場から企業退出競争が既に始まっている。
情実政治はこの国の未来を更に暗澹たるものにする。
「小泉・竹中の構造改革の行き過ぎが格差をもたらした」
という決まり文句を使う学者や政治家に是非読んでほしい一冊です。