学生NO.16115012:北村貴寿
非営利組織の経営 P.F.ドラッガー
第三章 目標の設定 ヘッセルバインとの対話
〇フランシス・ヘッセルバイン
1976年から90年まで全米ガールスカウト協議会専務理事、その後ドラッガーNPO財団専務理事。
・アメリカのガールスカウトには地域別協議会が325あり、ヘッセルバインはその連合体である全国協議会の専務理事を13年間務めた。
・ヘッセルバインの始めたプログラムのなかで一番印象的なものは5歳児(幼稚園児)の為のプログラム「デイジースカウト」
・ガールスカウトは7~17歳が対象だったが、調査の結果、5歳児でもグループリーダーを二人つけるとグループ活動ができることが分かったので、新しいプログラムを創設した。
●機会のターゲット
・325の協議会のうち、新しいプログラムにすぐに参加したのは約70、1/3の協議会の参加でスタートした。
・それぞれの協議会が独立して地域の女子の役に立とうとしており、それぞれが選択権を持っている。当初は多くの協議会が懐疑的だった。
・半年ほどで70から200となった。三年後にはアメリカ前後に広がった。デイジースカウトの団員は約15万人となった。
・ティーンエイジャーの女の子を相手にすることは苦手でも、5歳の女の子の為に働くのは好きだというボランティアに活躍の場を提供した。
・全国協議会はマーケット志向でニーズ調査を行った。ガールスカウトが生まれた75年前とは状況が変わっており、マーケット中心のプログラムを練り上げた。
・325の協議会は全国協議会の指揮下にあるわけではないので、デイジースカウトのプログラムを作るためにはマーケティングが必要だった。つまり新しいミッションの為の顧客を創造しなければならなかった。
・変化を起こすために「機会のターゲット(デイジースカウトに関心をもつ協議会)」に働きかけた。関心を示さない協議会のことはあまり気にしないことにした。
●ボランティアのトレーニング
・新しいプログラムを始めたがっている熱心な協議会と仕事を始めた。他のところには待ってもらうことにした。
・ボランティアについてはデイジースカウト用のトレーニングを受講しなければならないと定めた。トレーニングなしに新しいプログラムは開始しない。それを守らず失敗したプログラムは多い。
・ハンドブックを作成し、一つの団に6~8人の五歳児と二人のボランティアという構成にした。プログラムは五歳児の教育という視点から組み立てた。
・ボランティアは幅広く募集し、層を厚くして大勢のボランティアを確保した。ボランティアの勧誘という観点からもプログラムを検討した。トレーニングについても研究し、ボランティアが安心してデイジースカウトの仕事に入れるようにした。
・ガールスカウトでは専業主婦のボランティア層が小さくなったにもかかわらず、ボランティアの総数を増やしてきた。
・ボランティアには最高の学習機会を与え、セミナーを開催した。セミナーの質の高さがボランティアの必要性を伝えている。
・ボランティアの確保はガールスカウトのミッションに奉ずる協議会の人間が、ボランティア候補と直接面会し、誘った。
・ガールスカウトにどれだけ女の子を入れることができるかはボランティアの数で決まる。ガールスカウトはボランティアが最も重要なマーケットと考えた。
・実際には無給のスタッフとして扱う。仕事の基準を決め、トレーニングし、目線を高く保つようにする。これがボランティアのマーケティングにとって最重要。
・ボランティアとは、報酬ではなく仕事に喜びを見出すという種類の仕事のプロ。感謝の言葉がボランティアの支えとなっている。
●人口構造の変化を先取りする。
・ボランティアの育成はマイノリティのコミュニティ活動にも当てはまる。ただ、様々な人種・民族のニーズや文化の状況を把握する必要がある。
・マイノリティのコミュニティに進出するためには、既存の手法だけでは足りない。コミュニティの関係者を巻き込んでおくこと。低所得者用団地の管理人や牧師、保護者などに熱意を伝える。
・統計ではアメリカの1/3がマイノリティとなり、様々な人種・民族を抱える地域が生まれる。これは大きな機会であり、イノベーションのための全国センターを作った。
・人口変化の激しいカリフォルニア南部をターゲットに選び、優秀なスタッフを送り込んだ。ここでの成功モデルは他の地域でも活用できる。理論だけではうまくいかない。
・1912年ガールスカウトの創立者は「あらゆる女の子のために」というモットーを掲げた。時代とともに人口構造が大きく変化するなかで多くの不安が生まれているが、この変化を成長期にある女の子を助けるための絶好の機会として捉えている。
・ガールスカウトは顧客が複数(女の子・ボランティア)であり、非営利組織の典型。一つの顧客だけに働きかける非営利組織は失敗する。
・新プログラムの導入には、マーケティングプランを丁寧に。宣伝するだけではなく、人と接する方法をすべて探り、実行すること。マーケティングには人の介在が必要。
・自分たちの活動を継続して評価し、仕事ぶりをフィードバックする。うまくいかなければ、体制を立て直して別の方法で前進する。
第4章 リーダーの責任 マックス・ドプリーとの対話
〇マックス・ドプリー
大手家具メーカー、ハーマン・ミラー社会長、ホープ大学評議員会会長、フラー神学校理事、著書「リーダーシップ」(1989年)
・人はそれぞれかえがえのない存在。リーダーは人のおかげでその地位にある。人はリーダーが能力の発揮に力を貸してくれると考えるので、リーダーについていく。
・リーダーは組織から人、資金等を集める能力、伝統や価値を借りている。リーダーにはそれらを表明し、明確にし、決定し、仕事に反映させていく責任がある。ビジョンや仕事のやり方もそこから生まれる。
・人に関わることのすべては組織本位に考えることではなく、人本位に考えるべき。
●人の可能性を引き出す。
・人を育てれば組織が必要とするものを手に入れる確率は自動的に高まる。
・人が既に持っているものを使って人を育てなければならない。人を変えることはできない。才能を理解し、可能性を理解すること。
・組織では設定した目標の達成を重要視しがちだが、人を育てるという観点に立つと目標自体がさらに高いものになる。
・人を育てるという姿勢は、組織全体の水準の向上に通じる。目標にこだわりすぎれば、可能性を実現する機会を無くすことに繋がる。
・目標の達成とは目の前の問題であり、可能性の追求は人の一生の問題。
・リーダーは可能性(人の才能、強み)と現実(客観的なニーズ、客観的な条件、機会)を結び付け、成果をあげる責任も負わされている。
・リーダーは働く者に機会と仕事を用意する責任がある。一人ひとりの人間が得意とするものに焦点を合わせ、それぞれの強みが大きな成果を生むところに配置すること。不可能な仕事をさせてはならない。
・人が自分の可能性をフルに発揮し、責任を果たし、自己実現できるように権限を委譲すること。それがリーダーの責任であり、人がリーダーに期待できることの一つ。
・リーダーの定義とはついて来る者をもつ者。その為にはビジョンが必要。
・リーダーは未来志向でなければならないが、現実の明確化も必要。組織が健全で活力を持ち、生き抜くためには現実的でなければならない。
●機会を提供する。
・働く場所には沢山の選択肢がある。組織の方が働いてくれる人たちにふさわしいものにならなければならない。
・リーダーは自己実現の機会(働き甲斐のある共同体の一員になる機会、意味あることに関りを持つ機会、何かの一員であることの機会)を提供しなければならない。機会を考えずに活力ある組織は作ることができない。
・若い人はやる気がない、とこぼす前に、彼らが持っているものに目を向けなければならない。彼らも貢献への強い欲求がある。持っているものを引き出して社会の一員としなければならない。
・組織が人に要求せずに失敗するよりも、要求しすぎて失敗する方が良い。失敗そのものは教育の一環であり、多くを要求すれば仕事の質は向上し、人間の質も向上します。
・要求する条件は二つある。
①失敗しても第二のチャンス、第三のチャンスを与えること。挑戦してこないものは放っておく。
②多くを要求するのであれば、先生役を用意すること。若い人には責任を与え、相談相手を用意すること。
・人と人との関係は化学反応である。師弟関係はつくってやるものではなく、奨励するほうがよい。人を育てている人を見つけ、認め、褒め、報いること。組織への貢献を高く評価する。
●チームづくり
・共通のビジョンとミッションの元に活動している非営利組織、有給のプロと無給のボランティア、選ばれた役員を抱えている組織の場合のチームづくりの条件は、
①自分たちの仕事が、しなければならない仕事は何であるかを理解する。
②人を配置すること。人の配置には必ずなんらかの調整が必要であり、仕事の手順、計画、成果についても合意しておくこと。
・リーダーにカリスマ性は必要ない。変化にどう対応できるか、揉め事にどう対処できるか、関係者のニーズに応えられるか、といった観点からリーダーを評価する必要がある。
・継承はリーダーの大事な責任の一つである。
第5章 リーダーであるということ まとめとしてのアクション・ポイント
●ミッションを見直す
・非営利組織はミッションの為に存在する。社会を変え、人を変えるために存在する。非営利組織はミッションの為のものであることを忘れてはならない。
・リーダーが最初に行うべきことは、全員がミッションを目にし、耳にし、それとともに生きることができるようにすること。ミッションが見えなくなれば直ぐに問題が生じる。
・非営利組織の存在理由そのものは変わらないが、ミッションは繰り返し見直す必要がある。人口構造の変化、成果をあげなくなったもの、目標を達成したもの等を見直す。
・ミッションの見直しにあたっては外の世界からスタートすること。組織内からスタートするのは資源の浪費にしかならない。機会(ニーズ)を知るには外を見なければならない。
●長期目標からスタートする
・短期の活動は必要であり、短期の成果も必要であるが、ミッションは長期のものでなければならない。特に、収支というコンセプト抜きに貢献することを目的とする非営利組織のミッションは、すべて長期からスタートしなければならない。
・アメリカ企業の多くは四半期毎の決算を考えていたが、日本企業は「10年後いかにあるべきか」を考えていた。
・行動は短期的たらざるをえない。だからこそ、長期の目標につながるか、寄り道にすぎないか、目的を見失っていないかを考えなければならない。
●成果を中心に据える
・ニーズこそが行動の理由となるが、活動に見合う成果が必要であり、資源の配分が適切であるかを考えなければならない。
・リーダーは資源(人、資金)の配分に責任がある。リーダーの仕事は成果をあげさせることであり、なされるべきことをなすことである。
・リーダーシップとは行動である。行動とはミッションを書き替え、焦点を合わせ直し、新しいものを築き、組織し、廃棄することである。知っているべきことをすべて知っていて、なおそれを行うかを自問することである。
・あらゆるミッションにおいて、力を入れ続けるか。資源を注ぎ続けるか。それとも減らしていくかを考えなければならない。廃棄は組織を空腹にし、スリムにし、新しいことをできるようにする鍵である。決して満足しないことがリーダーとしての行動規範である。
・これらの事を行うべき時は、下り坂になってからでは遅い。万事がうまくいっているときである。予防は治療に勝る。
・リーダーは優先順位を決め、それを守り、資源を集中しなければ成果をあげることはできない。魅力のあるものでも捨てなければならない。
●組織の模範となる
・リーダーシップとは模範になることである。リーダーは目立ち、組織を代表する。組織の大小は関係ない。
・リーダーたるものは、あらゆる行動において、翌朝鏡の中に見たい自分であるかを問うことを習慣化しなければならない。あるいは自らのリーダーがそうあってほしいか自問しなければならない。その問いを発するだけで、多くのリーダーを破滅させてきた過ちから身を守ることができる。
・組織が課題に挑戦し、機会を掴み、イノベーションを行うには、組織が何をなすべきかではなく、リーダーが自ら何をなすべきか考えなければならない。
・自らの優先順位、組織にとっての優先順位は何か。それがなされるべきことであり、アクションプランである。
●市民社会をつくる
・非営利組織のボランティアであるということは、費やす時間の過多に関わらず、社会のリーダーであるということである。
・皆が能動的に動くという昔のような市民社会を我々はつくりつつある。企業には難しい。我々は一人ひとりの人間がリーダーである非営利組織において実現しつつある。
・その市民社会では、皆がリーダーである。皆が責任を持ち、行動し、自らが何をなすべきか考え、ビジョンを高め、能力を高め、組織の成果を高める。
・ミッションとリーダーシップは実践するものである。良き意図と知識を、成果をあげる行動へと転換するものである。来年ではなく、明日の朝転換するものである。