テーマ・サーベイ「非営利組織の経営 P.F.ドラッガー」

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学生NO.16115012:北村貴寿
非営利組織の経営 P.F.ドラッガー

●本書は1990年、ドラッガー80歳のときの著作。非営利組織の経営についての世界で最初の本格的な著作であり、古典。
第一章 ミッション
●ミッションは行動本位
・非営利組織=一人ひとりの人と社会を変える存在。
・ミッションは正しい行動をもたらすべきものであり、有効なもの、無効なものがある。
・リーダーの資質は、作法教室などでは学べない。
・自分を中心に置くリーダーは誤った方向にリードする。今世紀最もカリスマ的なリーダーといわれるヒトラー、スターリン、毛沢東は人類に害をもたらした。
〇リーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することである。(p2)
・ある病院の救急治療室のミッション「患者を安心させること」
・ガールスカウト「誇りと自信に満ちた女性を育てる」
・東海岸のある教会「キリストをCEO(最高経営責任者)にする」
・救世軍「落伍者を市民に変える」
・イギリスのパブリックスクール(教育者アーノルド)「紳士をつくる」
・シアーズ(通信販売会社)「農家の為のバイヤー役を務めること」
→倒産寸前から10年で世界一の小売業へ
・誤ったミッションの定義:多くの病院「健康の維持」…病院は健康を扱わず、病気を扱う。健康の維持は禁酒、体重の維持等、個人の行動によるものであり、病院は健康の維持に失敗したときに登場する。
〇ミッションは行動本位たるべきものである。さもなければ単なる意図に終わる。ミッションとは、組織に働く者全員が自らの貢献を知りうるようにするものでなければならない。(p4)
・救急治療室のミッション「患者を安心させること」
様々な患者が搬入され、10人に8人は特に救急の必要がない。しかし、直ちに全員を診察することが患者を安心させる唯一の方法である。

●ミッションの具現化
・ミッションそのものは永遠のものでよいが、目標は具体的である必要がある。
・目標は達成されれば変わることがあって当然。あらゆる非営利組織が、活動の点検、改訂、廃棄を体系化しておかなければならない。
・よくある過ちはミッションによき意図を詰め込みすぎること。シンプルかつ明確に。
・何かを加えたら、何かを廃棄する。役割を終えたもの、意義を失ったものは何か検討すべき。
・産婦人科:専門戦の要請等から地域の一般病院から徐々に廃止されている。
・精神科:治療薬の登場により、地域の病院へ広がっている。

●ミッションの三本柱
・強みによる成果が重要。うまくいっているものをさらにうまく行わなければならない。
1、 機会すなわちニーズを知ること。
2、 自らの能力によって社会を変え、自ら基準となりるものは何かを考えること。自らが基準となりうるためには優れた仕事が必要であり、成果に新たな次元を持ち込むことが必要。
3、 ミッションは人格的。何を大事に思うかを考えなければならない。コミットメント無しには成功しない。
事例:フォード社とエドセル社
事業戦略はほぼ同じだった。明暗を分けたのは、全身を投げ打つ者の有無だった。
・問うべき三つのこと。
1、 機会は、ニーズは何か。
2、 我々に向いているか、強みにあっているか。
3、 心底価値を信じているか。
・非営利組織のミッションには機会、卓越性、コミットメントの三本柱が不可欠。

第二章 イノベーションとリーダーシップ
●変化は機会
・いかなる組織にも危機が来る。リーダーにとって最も重要な仕事は危機の到来を予測すること。危機を回避するためではなく、備えるためであり、危機が来るまで待つことは責任の放棄である。
・イノベーション=危機を予測し、先手を打つ。倦むことのない刷新。
・危機の到来を防ぐことはできないが、危機に耐えうる組織をつくることはできる。そのような組織に必要なのは、信頼である。
・組織の停滞は、成功しているときに始まる。自己陶酔による自己資源の無駄遣いが起こる。
・いかなる組織も市場の成長に後れをとるならば、簡単に危うい存在となる。
事例:教会 教会を小さなまま、全員の顔がわかる大きさにとどめたい=信者の減少。
・非営利組織のリーダーは成長の進行を見極め、適宜調整しなければならない。柔軟性、活力、ビジョンを失えば組織は硬直化する。
・非営利組織には収支が関係ない。であるがうえに、営利企業よりも意識して体系的な廃棄を行う必要がある。
事例:ミッションスクール 信者でない生徒が公立学校から逃れてきて生徒数が増加。
A:司教が少ないため、本来のミッション(魂の救済)に集中させるべき(=生徒数を絞る)
B:教育こそ慈善。生徒を受け入れるべき。正面から取り上げるべき問題。
・問題が明らかになれば、イノベーションが可能になる。
〇イノベーションを行えるようになるための大前提が、変化は脅威ではないとの認識である。変化は機会である。(p12)
・事例:アメリカのガールスカウト、女性運動、心臓協会。

●イノベーションを成功させるために
・イノベーションを成功させる態勢とは。
体系的にイノベーションを行える。
組織の内外においてイノベーションの機会を追及できる。
イノベーションの機会として変化を発見できる。
→リーダーシップが不可欠。
・態勢づくりの手段と注意点。
1、 機会の発見を容易にする。
一般的な報告システムは過去を報告する。変化を求めるならば「機会かどうか」を問えるようにしておくべき。
2、 保険のかけすぎ、守りすぎ、昨日から離れられないことに気を付ける。
日本企業による電話交換機の対米輸出失敗例:旧来型と併用できるシステムを開発したが、アメリカの客は最新式の導入を選んだ。
アメリカの病院の例:外来部門を強化したが失敗。外来専用のクリニックは成功。
3、 新しいものを担当する部署の位置づけ
日常問題の解決が優先されてしまうため、独立部門として位置付けるべき。しかし現業部門とも関連させなければならない。無縁のものにしてしまうと、現業部門の反感や、新部門の麻痺がおこる。
・イノベーション成功の為には戦略とコミットメントが必要。機会を体現する人(=影響力がある人物)を見つけ、新しいものに惚れ込み、本気になること。
・企画してから売り込むのでは遅く、現業部門を初期段階から巻き込んでおくことが必要。→危機におけるリーダーシップの典型例
事例:美術館
美術品を貯蔵し、人を入れない美術館から脱皮し、地域の教育機関になろうとした。部署を新設し模様替えを行ったが、管理部門との連携が不十分だった。駐車場やトイレが不足し、新規オープン時に大混乱となった。
事例:資金難に悩む大学
カリキュラムや教授陣について素晴らしい考えを持った学長が、資金難については考えなくてよい、と言われ、州立大学より引き抜かれて就任した。しかし、5~10年で経営破たんする見通しであることが明らかになった。学長は学内のことを任せられる人間を見つけ、資金集めを行い、大学は救われた。
事例:1930年代設立の電力協同組合
組合は農家に電力を供給してきたが、電力ニーズは減少し、近隣の電力会社に身売りする検討をはじめた。CEOが交代し「電力供給というミッションは終了したが、農家は苦境にある。改善の為には流通システムをもつ我々が新たなサービスを提供する」
地域の農家は農産物の価格低迷に苦しんでいたが、新たなサービス提供によって改善した。

●リーダーを見つける
・組織のリーダーを選ぶ3つの観点
1、 その人が何をしてきたか、何が強みかを見る。弱みに注意を払うべきではない。
2、 組織がおかれている状況をみて、組織の為に行うべき重要なことは何かを考える。
3、 真摯さを見る。強力なリーダーは模範となるべきものである。
人事について究極の判断基準(ドラッガーが20代で世界的規模の組織長から学んだ事)
「重要なことは自分の子供をその人の下で働かせたいと思うかどうかである。その人が成功すれば、若い人が見習う。だから私は自分の子がその人のようになってほしいかを考える」(p18)

・企業や政府機関と違い、非営利組織のリーダーの凡庸さは直ぐに露呈する。非営利組織には「企業=利益追求」といった絶対的判断基準がなく、判断基準・ステークホルダーが多いことがその原因である。
・多様な基準を考え、その組み合わせとバランスを考慮しなければならない。
・非営利組織では「大義」にコミットしているので、高い能力と仕事を要求される。自らを重視するリーダーは、自らを殺し、組織を殺してしまう。

●リーダーの役割
・非営利組織のリーダーとなった者には、さほど時間は与えられない。一年ほどである。短い期間に成果をあげるには、組織のミッションと価値観に沿った役割を果たすこと。
・リーダーの役割が以下の三つと適合しなければならない。
1、 リーダー自身。喜劇俳優はハムレットを演じることはできない。
2、 なされるべき課題
3、 寄せられる期待
事例:失敗した若手教員
権威を示すことができず、学生に反抗されて教師として失敗。19歳の学生が権威を求めていることを知らなかった。
・リーダーが使えるものは二つ。組織内の人材と、彼らに対して課す要求。何を要求すべきかは、分析や知覚によって知ることができる。
・リーダー用の性格や資質というものはない。優劣はあるが、ほとんどの人間がリーダーのスキルを身に着けることができる。
・優れたリーダーは「私」を考えない。いつも「われわれ」と考える。リーダーの仕事はチームを機能させることだと知っており、責任を引き受け、逃げない。成果は「われわれ」のものとする。
・考えることはなされるべきことと、チームのことだけである。そこから信頼が生まれ、なされるべきことがなされる。
・シェイクスピア「ヘンリー八世」王であり、冷たかった父を無くしたばかりの新王は、育ての親のような老騎士の「王子」という呼びかけには振り返らない。リーダーとは目立つ存在である。
事例:第一次世界大戦前のドイツの政治家
ハト派の駐在大使であり、ヨーロッパを救おうとしていたが、イギリス新王が外交パーティーで娼婦を使いたいと望んでいるという内意を知り、大使を辞した。政治的には辞職は誤りだったが、リーダーシップの真髄は彼の行動にある。自分に見えるものは人にも見える。
・リーダーには時節があるという。平時にはチャーチルやローズヴェルトはその能力を発揮できない。しかし、平時を得意とし、緊急時のストレスには対応できないリーダーもいる。
・リーダーに必要な基本的能力
1、 人の言うことを聞く意欲、能力、姿勢。自分の口を閉ざすこと。
2、 自らの考えを理解してもらう意欲。何度も繰り返す忍耐。
3、 言い訳をしないこと。
4、 仕事の重要性に比べれば、自分などとるに足りないことを認識する。仕事はリーダーよりも重要であって、仕事と自分を一体化してはならない。
・リーダーにとって最悪のことは、辞めた後に組織がガタガタになること。それはリーダーが単に収奪するだけで、何も作り上げなかったことを意味する。
事例:ルイ14世・チャーチル・ローズヴェルト
ルイ14世:「朕は国家なり」と言ったが、死んだ後のフランス革命へは早かった。
チャーチル:後進を育て後押しした。それこそ人の強みに脅かされることがない真のリーダーの証。
ローズヴェルト:自立の兆しを見せるものはすべてを切り捨てた。

●リーダーは自らをつくりあげる
・組織にすべてを捧げずともベストをつくせば良い。人を組織に引き付けるものは高い基準であり、それが高い誇りをもたらす。人はもともと貢献することを好む。
事例:学校
勉強している学校としていない学校との差は、教え方の違いではない。勉強している学校では勉強することを期待している。
事例:ボーイスカウト
活発な支部とそうでない支部との違いは、ベストを尽くすことが全員に期待されていた。ボランティアや子供たちを惹きつけていた。
・ほとんどのリーダーが生まれつきのリーダーでなく、自らをリーダーとしてつくり上げた。成果に焦点を合わせることこそリーダーの仕事である。
事例:ハリー・トルーマン大統領
ローズヴェルトの死により大統領となったが、何の準備もしていなかった。「今日から大統領だ。全責任は私にある。大事な仕事は何か」と聞いた。アメリカに必要なのは前任者のニューディール政策ではなく、外交という事実を受け入れ、その仕事に集中した。
事例:ダグラス・マッカーサー
最高の戦略家であり、うぬぼれが強かった。しかし、参謀会議では一番の軽輩から発言させ、口を挟まなかった。彼の気性にはあわないやり方だったが、それが彼の役割だった。こうしてはるかに優勢な敵とも闘いうる組織を作り上げた。
事例:トーマス・ワトソン・シニア(IBM創始者)
自己中心的で傲慢だった。優秀な者を去らせた。理由は「私は営業マンだ。IBMは技術の会社である。技術のことを教えてくれなければリーダーシップは発揮できない」リーダーをリーダーたらしめるものは、なされるべきことについて自らを卓越した存在にしようとする強い意志。
事例:テッド・ハウザー(シアーズ・ローバックCEO)
シアーズ社は彼が就任した時、成功を続けていた。彼は仕入れの専門家であり、統計屋だった。同社の成功の為に何が必要か考えた。答えは店長の育成だったので育成プログラムを作った。人材に恵まれたシアーズは成功を続けている。

・リーダーをつくり上げるのは仕事である。リーダーとは仕事を通じて自らつくりあげるものである。

●バランスをとる
・リーダーの重要な仕事の一つが個別的・全体的、短期的・長期的な問題など二つのバランスを取ることである。
・全体に気を取られすぎれば、助けを待つ個の存在を忘れてしまう。この種の過ちをただすには、修羅場に短期間(数日から一年)身を置くことである。
・仕事の虜になっても過ちを生む。非営利組織のリーダーの場合、他の組織や団体の為に働くことによりそのような事態を回避することができる。自分の組織に起こる問題を別の視点から見る機会をつくることが有効。
・集中と多様化のバランスは難しい。最大の成果は集中することによってのみ手にできる。しかしそこには、間違ったことに集中したままになるリスク、大事なことを忘れるリスク、想像力の発揮に必要な遊びの部分を失うリスクを伴う。あらゆる仕事は陳腐化する。多様な視点を確保しなければならない。
・慎重さと迅速さのバランス(=タイミング)はさらに難しい。分別と中庸が求められる。
・性急さへの対処は容易だが、待ちすぎる人もいる。重要なことは自らの悪い癖を知ること。その対策を講じることである。非営利組織では性急さよりも鈍重さによる失敗が多い。
・機会とリスクに関わるバランスでは、元に戻すことができるのか考える。戻せるのならば、かなり大きなリスクを取ることができる。非営利組織の場合、財政的なリスクに配慮すること。
・これらのバランスに関わる意思決定こそ、非営利組織が優れたリーダーを持たなければならない理由である。

●リーダーがしてはならないこと
・自分の決定を誰もが理解している、と思うこと。誰も理解などしていない。決定する前には相談し、議論し、参画させなければならない。成果をあげるには自分をわかってもらうために時間を使うこと。
・組織内の個性を恐れること。これは組織のリーダーが最も陥りやすい誤り。自分を押しのけようとする能力の高い人間は野心家的であるが、凡庸なものに囲まれるよりもリスクは小さい。
・後継者を自分一人で選んではならない。自分と似ている人間を選びたくなるが、似ていることそのものが幻想である。似ていたとしてもコピーにすぎず、コピーは弱い。
ナンバーツーを選んではならない。彼らは言われた時には仕事ができる、という種類の人間であり、組織全体が大きな害を受ける。
・手柄を独り占めにすること。部下を悪く言うこと。リーダーとは部下や同僚に責任を持つ存在である。

・しなければならない最も重要なことは何か。
自分でなく、仕事を中心に据えることである。
しなければならないことが全てであって、自らは仕事の従者にすぎない。

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