イノベーションとは何か

イノベーションとは何か
池田 信夫

シュンペーターが元祖とされる「イノベーション」
「革新」という意味で使われたりしますが、「新機軸」「新結合」「創造的破壊」等々によって社会を大きく変化させることが本来の意味だとされています。

言葉の誕生はそこそこ古く、シュンペーターの1911年「経済発展の理論」からですから100年前。歴代ブロック会長の某先輩も理事長所信の中にお使いでした。

私も5年ほど前、落選した初めての選挙の時から「政治をイノベーション!」というスローガンに使わせて頂いてました。当時は「何それ?」「意味わからん」「日本人なら日本語で」というご意見?を多数いただきました。

ただ当時から言葉の響きが良いのでしょうか、子どもたちには人気だったとか(苦笑)

落選してからしばらく経って企業がテレビCMなんかに使いだしてからは「CMで使われてたね」なんてコメントも頂いたり。

去年からは同様の意味を仲間が考えてくれた「おおむら維新」としています。デザイナーの配慮でイノベーションの英文が控えめに入ってます(感謝)。

たまに大阪と何か関係が?と聞かれますがパクリではありません。私のほうが若干早かった(笑)

さて本書、正直なところ期待ハズレ、というか「タイトル負け」と言ってもいいのかも。

タイトルから期待するのは「イノベーションの定義」だが、のっけから「定義できない」としてある。

本書はイノベーションが起こった成功例と、失敗例の事後的な分析が羅列してある。また経済学の古典や行動経済学、ゲーム理論、認知科学といった部分にも及んでいる。

が、網羅的すぎて広く浅く、といった印象。

本書イントロにも
”「イノベーションの何とか」というビジネス書が沢山あるが、その殆どが過去の成功体験を列挙して結果を述べたものだ”
という切り捨てが期待を煽るが本書もその類に入るだろう。
様々な事象や理論からイノベーションの定義を打ち立てていく、という内容を期待していたのでチョットがっかりかも。

氏の著書やブログには知的興奮が多かった。それに比べて退屈な印象です。
読むのにも時間が取れない、という事もあったが、面白くない(失礼)なのであまり手が出ず、いつも以上に時間が掛かってしまった。

SBI大学での講義を中心に編集されたもの、ということでコマ切れ感にちょっと納得です。
とはいえ、コマ切れなりに美味しいところもありましたのでご紹介。

・柱となる10の仮説
1、技術革新はイノベーションの必要条件ではない。
優れた技術がダメな経営で成功する事はまずないが、平凡な技術が優れた経営で成功する事は多い。重要なのはビジネスモデル。

2、イノベーションは新しいフレーミング。
顧客の要望を聞いてもイノベーションは生まれない。重要なのは仮説を立て市場の見方(フレーミング)を変えること。

3、イノベーションに成功するかは分からない。しかし失敗には法則がある。

・失敗の法則
大勢の合意。
最新のハードを開発し、これまで不可能だった新しい技術を実現。
NTTや日立など多くの大企業が参入し大規模な実証実験を行う。
政府が「研究会」「推進協議会」をつくり補助金を出す。
日経新聞が特集を組み、野村総研が「10年後には○○兆円の市場になる」と予測

・失敗しないための条件
要素技術はありふれたものでサービスも既にあるがうまくいってない。
独立系企業がオーナーの思い込みで開発ししきなり商品化。
企業が一つだけなので標準化が不要、すぐに実装。
政府が関心を持たない。
最初はほとんど話題にならないので市場を独占し事実上の標準となる。
空気を読まない。

4、プラットフォーム競争で勝つのは安くてよい商品とは限らない。
5、「ものづくり」にこだわる限りイノベーションは生まれない。
6、イノベーションにはオーナー企業が有利。
7、知的財産権強化はイノベーションを阻害する。
8、銀行の融資によってイノベーションは生まれない。
9、政府はイノベーションを生み出すことはできないが阻害する効果は大きい。
10、過剰なコンセンサスを断ち切ることが重要。組織ガバナンスを高めること。

既存の常識に依存した市場予測ほど当てにならないものはない。その有名な例としては、次のようなものがある:

アメリカでは電話が必要かもしれないが、イギリスでは必要ない。当地には多くの郵便配達夫がいる。
イギリス郵便公社の主任技師(1878)

馬車は確立したビジネスだが、自動車は珍しいだけ。こんな一時の流行に投資すべきではない。
ヘンリー・フォードの弁護士(1905)

無線で音楽を流す箱には商業的価値はない。誰に向けて出されるわけでもないメッセージに金を払う客がいるのかね?
NBCの創立者デヴィッド・サーノフの顧問(1920)

俳優がしゃべるのをいったい誰が聞きたいんだ?
ワーナーブラザーズ創立者ハリー・ワーナー(1927)

コンピュータの世界市場は、5台ぐらいはあるかもしれないと思う。
IBM会長トマス・ワトソン(1943)

テレビの流行は6ヶ月以上は続かないだろう。人々は毎晩、木の箱を見るのに飽きるだろう。
20世紀フォックスのプロデューサー(1946)

こんなおもちゃに用はない。だいたい君らは大学も落第してるじゃないか。
スティーブ・ジョブズとウォズニアクのパソコンを拒否したヒューレット・パッカード(1975)

家庭でコンピュータを使いたい人がいると考える理由がない。
DEC創立者ケン・オルセン(1977)

これらは前に一度紹介しましたね。

停滞にあえぐ日本経済への処方箋も巻末にありますがキレが悪い。

政治の貧困が現状を招いているというのは一般論でしょう。氏の一貫した主張である「労働市場の流動化」は政治的に困難、と諦めながらもこれは見新しい事ではなく、高度経済成長の初期には見られたとの分析。

最後はデジタル世代のSNSによって生まれる新結合がイノベーションを起こすことに期待したい、って相当肩スカシでした。

ティーブ・ジョブズの独裁者ぶりや孫正義のまぐれ当り(失礼)、任天堂の話なんかは面白かったです。ただしオマケみたいなもの。他にも詳しい山ほど本が出てますのでそちらが良いかも。氏の次回作に期待です。

”むずかしいのは新しいアイディアを開発する事より、古いアイディアから逃れることである”

ジョン・メイナード・ケインズ

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