鹿児島県指宿市観光協会・夢たまプロジェクト

指宿市は人口4.1万人、面積79.6k㎡、一般会計規模207億、財政力0.38。薩摩半島の最南端、鹿児島湾口に位置し、豊かな自然と温泉、温暖な気候に恵まれる。「湯豊宿」とも表記され、年間400万人近くの観光客が訪れる国内有数の観光温泉保養都市。06年1月に指宿市・山川町・開聞町が合併し、新・指宿市に。高次都市機能面[i]では隣接する鹿児島市への依存度が高い。今般、指宿市観光協会が事務局を担う「夢たまプロジェクト」について会派視察を行い、公益社団法人 指宿市観光協会 中村勝信 会長に説明を受けた。

 

「夢たまプロジェクト」はJR指宿枕崎線沿線や南薩の有志、自治体(指宿市・枕崎市・南九州市)により、広域的な観光の魅力を高めることを目的として結成された。広域的観光ルートの開発や、鉄道の楽しさを伝えたいという目的は勿論のこと、周辺地域には慢性的な赤字路線や廃線になった鉄道も存在し、地域の公共交通存続への危機感もあったという。

 

ホームには竜宮城をイメージした写真館が設置。

 

「夢たまプロジェクト」は観光特急「指宿のたまて箱(愛称:いぶたま)」[ii]をまちづくりに活用するプロジェクトであり、これまで5回運行されている。通常「いぶたま」は鹿児島中央駅から指宿駅までの特急運行だが、指宿駅から枕崎駅までをプロジェクトが主体となり特別運行する。第一回は平成26年2月4日に運行。通常運行されていない路線にて民間団体の企画により運行される観光列車という話題性もあり、多くの報道や市民が詰めかけたという。

 

駅前の足湯。多くの観光客が利用していた。

足湯の清掃はボランティアが活躍している。

駅前の写真スポット。
 
第二回は26年7月24日「リメンバー南薩鉄道・昭和をあじわう旅」というコンセプトにて観光バスなどを組み合わせ、廃止された南薩線をめぐる運行。第三回は平成26年11月22日「大人の遠足」と銘打ったワイン列車。鹿児島市内のソムリエを招聘し、地元の食材を活用したイタリアンを肴にシャンパンやワインと共に堪能する企画。車内ではバイオリンの生演奏も行われた。第四回は「焼酎列車」。第五回は「七夕列車」として運行された。全運行を通じて「おらが町の駅」と称し、各駅にておもてなしを競う。沿線での手ふりは勿論、地元ならではの食材の差し入れや催しを開催。名誉駅長の設定や、花や植栽、清掃など駅ごとのボランティア活動を行っている。これまで5回運航され、乗客の募集は旅行会社に委託。事業費に行政からの補助金等は入っていない。1両編成での運航の為、JR九州の収入は通常の運賃×35名のみ。報道等による広報宣伝効果を見込んでいると推察される。(事務局を担う指宿市観光協会には、全体の経費として年間800万)

 

ハッピを着た駅員による歓迎。最近は香港からの観光客が多いとか。

「たまて箱」なので到着時に煙が出る演出(実際はミスト)。

 

中村会長によれば、とにかく第一回の運行にこぎつけるまでが大変だったという。JR九州との度重なる交渉や、プロジェクトメンバーによる公式、非公式を問わない飲みにケーションを幾度も重ね、なんとか試験運行にこぎつけた。観光特急「いぶたま」は地域住民に深く愛されている鉄道であり誇りでもある。指宿市民にとってはかけがえのない存在になった、とのこと。夢のいっぱい詰まった玉手箱を運んで来てくれた、様々な事を指宿市民に教えてくれた、という。指宿市では「いぶたま」を核とした観光、まちづくりを成功させよう、という機運が高まり、様々な取り組みが展開された。

木材を中心とした温かみのあるリノベーション。

 

竜宮伝説を活用したまちづくりや地元産品の掘り起こし、観光客に対する手振り。沿線住民や子どもたち、市職員の昼休み時間に行われる「いぶたま」への手振り運動は広がりを見せ「珍衝撃映像バラエティ・ナニコレ珍百景」[iii]にも取り上げられ珍百景No.1232として登録された。たかが手振り、されど手振り。手を振る方も振られる方も感動し、時には涙を流す方もあるという。この運動により人と人との絆が再確認できた、との事だった。地域住民が育んだ「おもてなしの心」を沿線にも広めたい、「いぶたま」の走らない路線にも「おもてなしの心を」伝えたい、という熱意がJR九州に伝わり、特別運行が実現したのだろう、とのこと。

 

市職員による手振り。週5日、毎日手を振っているとの事。沿線の市民からも手を振られた。

 

「いぶたま愛」の証左だろうか。平成26年6月21日、豪雨による土砂崩れにより先頭車両が脱線。15名の乗客が負傷するという脱線事故が発生した。負傷者は救急車にて病院へ搬送。その他の乗客は近隣の高校に退避した。事故発生を知った指宿市民や行政関係者が次々に収容先に集まり、学生らとともに乗客の荷物を運搬、タオルや温かいお茶をふるまうなど、JR九州関係者が鹿児島から駆け付ける前に乗客のケアにあたったのである。「いぶたま」は3週間後に運行再開、再開を祝して大勢の指宿市民が集まり、ホームで乗客や乗務員を出迎えたという。

 

 

残念ながら、現在はJR九州のトップ交代とともに経営方針が変更され、次回開催の目途は立っていない。今後は沿線を地域住民による創作案山子で飾ろうと考えている、との事だった。

 

6.所  見(事業採択の可否も含む)

「夢たまプロジェクト」は、通常運行していない路線に様々なコンセプトを練りこんだ観光列車を走らせようという企画であり、大村市には同様の環境がない。

しかし、大村線においても「ななつ星」「或る列車」が運行されており、平成34年には九州新幹線西九州ルートの暫定開業も予定されている。車両基地を観光資源として活用する「鉄の駅」構想[iv]が議会で取りざたされ、大村市第5次総合計画に同趣旨の項目が盛り込まれた。また、これまでも大村市出身のミュージシャンによるクラシックコンサートを楽しむ列車「大村線スイーツトレイン」「大村湾オーシャントレイン」を限定運行する等、鉄道を観光資源としたまちづくりの素地は十分にあると言えるだろう。

指宿市とは環境が異なる為、全く同様の運行は不可能だが、大村ならではの環境を鉄道に活かした観光施策の可能性を十分感じさせる視察であった。

 

[i] 行政、教育、文化、情報、商業、交通、レジャーなど住民生活や企業の経済活動に対して、各種のサービスを提供する都市自体が持つ高いレベルの機能で、都市圏を越え、広域的に影響力のある機能。

[ii] 九州旅客鉄道(JR九州)が指宿枕崎線の鹿児島中央駅 – 指宿駅間で運行している特急列車。愛称「いぶたま」。JR九州は新幹線の開業効果を沿線外にも広めるため観光列車の新設を行っており、「指宿のたまて箱」も2011年(平成23年)3月12日の九州新幹線(鹿児島ルート)の全線開業にともなって翌13日から運転を開始。特別快速「なのはなDX」を置き換えて、指宿枕崎線では初めての定期特急列車の運転となった。当列車は日本で最も南を運行する特急列車となっている。平日昼に指宿駅を発着する列車では、指宿市役所職員の有志が沿線や駅ホームに立ち、手を振って歓迎する光景がみられる。名称は薩摩半島の最南端にある長崎鼻一帯に伝わる浦島太郎伝説の玉手箱にちなんでいる。日中3往復運行され所要時間は約55分、前身の「なのはなDX」とほぼ同じ。全席指定席となっている。デザインは水戸岡鋭治。小倉工場で約1億6000万円をかけて改造された。外部塗装は海側(下り方向に向かって左側)側面と前面の海側半分が白色、山側(下り方向に向かって右側)側面と前面の山側半分が黒色の印象的なツートンカラー。車内は2人掛け回転リクライニングシート、大型のテーブルが設置された4人用のコンパートメント席・ソファー席・海側の窓側を向いた1人掛け席が用意されており、座席の種類はバラエティに富んでいる。このほかにも子供用に海側を向いたキッズチェアが用意されており、その後ろには保護者が監視するためのソファー席が用意されているが、これらはフリースペースの設備の一部のため、座席番号の割り当てはない。また浦島太郎伝説にちなみ、ドアが開いた際には玉手箱の煙に見立てたミストが連結面寄りの噴出口より噴射される。車内販売では指宿温泉サイダーがおススメ。


[iii] テレビ朝日系列で2008年から2016年までレギュラー放送され、現在は不定期特番として放送しているバラエティ番組。通称は『ナニコレ』または『珍百景』。全国各地にある珍しい風景のVTRを「珍百景」候補としてネプチューンの名倉潤と堀内健がプレゼン。それを原田泰造(ネプチューン)とゲストからなる『珍定委員会』のメンバーが審査し、委員全員が「珍定」、または「認定」したもののみが「珍百景」として登録され、放送終了後に公式サイトで公開される。公式サイトではゴールデンタイム時代の物からナンバリングされ2015年7月現在その登録数は2100を超える。

[iv] 大村市議会議員である北村タカトシが市政一般質問で数回にわたり提案している観光政策。大村市民から新幹線を観光資源にできないか?と提案され調査、検討を開始した。熊本総合車両所が年間6000名を超える見学者を受け入れ、車両基地まつり等を開催する観光名所となっていることに着想し、大村市に設置される新幹線車両基地を観光資源として活用しようというもの。日中走行している新幹線の夜間整備見学や、福重地区の観光農園と提携したグリーンツーリズム。実現すれば世界初の技術となるFGTの構造等を学習できるような観光メニューを構築し、大村の新たな観光資源とする政策を提案している。「鉄の駅」という命名は市職員へのヒアリング中に生まれた。

 

 

 

 

 

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