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非営利組織の経営 P.F.ドラッガー
第Ⅴ部

第1章 自らの成長
●責任ある仕事
・成長の為に最も優先すべきは卓越性の追求。そこから充実と自信が生まれる。能力は仕事の質と人間そのものを変える。能力なくしては優れた仕事、自信はありえず、人としての成長もない。
・自らの成長は組織のミッションに関りがある。仕事のできないことを設備や資金、人手、時間のせいにしてはならない。それは堕落の始まりである。
・非営利組織のリーダーは人の成長を考えなければならない。人は組織とビジョンを共有するからこそ働く。金銭的報酬を得ていないならば、仕事そのものから多くを得なければならない。
・非営利組織の側にしても大義を失った人々(=これまでずっとそこにいたから、そのまま居続けたい色あせた人々)を抱えていたくはない。成果に焦点を合わせた優れた非営利組織では大義を失った人々が居続けられないほど、多くの時間と仕事を要求している。
・建設的な不満を醸成することが必要。活動に疲れ、不満を口にするスタッフが辞めないのは「大事なミッション」を共有しているからである。そのような組織を作り上げるカギは、目的達成の為に全員の存在が不可欠だと実感できるような仕事を作ることである。
事例:教会
信者数12000人のある教会は、一般信者をゼロにし、有給と無給のスタッフばかりにしてしまおうとしている。全員が何らかの形で働くという目標を設定している。完全には実現していないが、野心的な目標を掲げているからこそ、毎年50~100人が新たにスタッフとなっている。また、有給スタッフは数少ない。半年ごとに、自分の成長と人生がどう変わったかを振り返る。ボランティア不足は発生せず、希望者リストは長くなる一方だという。

●成果をもたらすもの
・自己開発に最大の責任を持つのは本人であり、上司ではない。誰もが自らに対し「組織と自らを成長させるには何に集中すべきかを問うこと。
事例:医師の要求やペーパーワークに追われる看護師
看護こそが私の仕事であり、他のことは邪魔。本来の仕事に集中するにはどうしたらよいか。仕事の方法に問題はないか。もっと良い看護ができるように皆で仕事の方法を変えられないか。
・自分を成果をあげる存在にできるのは自分だけ。果たすべき責任は自己ベストを引き出すこと。人は自分の能力でしか仕事はできないし、信頼や協力を得るには最高の成果を上げるしかない。
・他人や環境のせいにしても成果は上がらない。変えるべきことを体系的に知るためにコミュニケーションをとるのも自分の仕事であり、責任である。
・成功する人たちは定期的に反省をしている。計画どおりにはならない。どんな分野でどんな貢献をしたか。どんな分野が私を必要としているか。どこで時間を無駄にしたか。最高の貢献と成長を実現するためにはいかなる分野に集中すべきか。
・人は強みの集中によってのみ自らの成長を図ることができる。そうして初めて自らのビジョンを生産的なものにすることができる。真の貢献者とは組織のミッションそのものを成長させる者である。
事例:指揮者ブルーノ・ワルター
シーズンの終わりにはオーケストラ全団員に「リハーサルでは貴方から学んだ。貴方は一緒に仕事をして何を学んだか」という手紙を書いた。返事の半分は絵葉書ほどだったが、「新しい時代の演奏を模索している」という真剣な返事もあった。ワルターのオーケストラで働くことは音楽家として大きな成長の機会となった。
・成功に必要なものは責任であり、全ての出発点。責任を持つという事は、仕事にふさわしく成長したいといえるところまで真剣に仕事に取り組むこと。
・スキルを身に着けることが必要。長年をかけて身につけた能力だとしても、陳腐化しているならば捨てなければならない。
・責任ある存在になるということは自らの総力を発揮する決心をするということ。「違いを生み出すために、何を学び、何をなすべきか」を問う。
・自己開発とはスキルを修得するだけではなく、人間として大きくなること。責任に焦点を合わせるとき、人は自らの誇りと自信を考えるようになる。目指すべきは外なる成長であり、内なる成長である。
・リーダーをリーダーたらしめるのは肩書ではない。模範となることによってである。そして最高の模範となることが、ミッションへの貢献を通じて自らを大きな存在にし、自らを尊敬できる存在にすることである。

第2章 何によって憶えられたいか
●働く環境を知る
・成長するにはふさわしい組織でふさわしい仕事につかなければならない。自らがベストを尽くせるのはどのような環境かを知らなければならない。
・最初の仕事はくじ引き。最初から適した仕事つく確率は低い。しかも、得るべきところを知り、自分に向いた仕事に移れるようになるには数年を要する。
・気質や個性を軽んじがちだが、容易に変えられるものではないので重視し、明確に理解することが必要である。決定を完全に理解しなければ行動できないものは戦場には向かない。
・得るべきところはどこか、という問いの答えが「今働いているところではない」とすれば、次の問いは「それは何故か」である。組織の価値観になじめないためか。上司が利己的だからか。
・組織が腐っているとき、自分が所を得ていないとき、成果が認めらないときは辞めるのが正しい。出世は大した問題ではなく、重要なことは公正であり公平であることである。さもなければやがて自分を二流の存在とみるようになる。

●所を得る
・自らに刺激を与えるうえでも変化が必要である。10年同じ組織で働いたボランティアが組織を変わる。学ぶことがなくなったためである。このことは重要であり、仕事で学ぶことがなくなれば、人間の大きさが一挙に小さくなる。
・日常化した毎日が心地よくなった時こそ、違ったことを行うよう自らを駆り立てる必要がある。必要なのはほんの小さな変化である。校長であれば他の学区を訪れ、校長同士で共通の問題について話し合えばよい。
・週60時間働いている非営利組織のトップは、週3時間を全く異質の仕事に使う事。働きすぎているからこそ精神的にも肉体的にも使ったことのない部分を使うという事が魔法のようによく効く。
・「燃え尽きた」とは、たいていの場合飽きたというだけの事である。仕事に飽きたということは、成果を上げるべく働くのを止めた、ということである。
・仕事から学び続けるには、自分の期待に成果をフィードバックさせ、重要な活動は何かを知ること。活動について何を期待するか書き留めておき、一年後に成果とその期待を比べることによって、自分の能力や知識、悪癖が分かる。
・組織の中や知り合いに目を向け、学ぶこともできる。他人の成功に目を向け、それを自らもやってみること。
・仕事を変え、キャリアを決めるのは自らである。自らの得るべき所を知るのは自らである。組織の貢献において、自らに高い要求を貸すのも自らである。飽きることを許さないように予防するのも、挑戦し続けるのも自らである。

●強みをいかす
・組織に働く我々の殆どが驚くほど小さな成果しかあげていない。成果をあげる人とあげない人の差は、いつくつかの習慣的姿勢と基礎的な方法を身に着けているかどうかである。
・成果をあげるための第一歩は、行うべきことを決めること。その後に優先すべきこと、集中すべきことを決めること。自らの強みを活かすこと。
・自らの強みは自らの成果でわかる。強みとはスキルの有無ではなく、能力である。読めるかどうかが問題ではなく、読み手であるか、聴き手であるかの問題。それは左利きや右利きのように変えにくいものである。
・強みが人によって大きく違う。そう認識されるようになったのは最近。対人関係の得手不得手は間違って理解されている事が多い。話し上手だからではなく、聞く力にポイントがある。

●成長の原理
・仕事が刺激を与えるのは、成長を期しつつ、自ら興奮・挑戦・変化を生み出すときである。これらが可能となるのは、自らの仕事と双方を新たな次元で見るときである。
・自らの成長につながる最も効果的な方法は、自らの予期せぬ成功を見つけ、その予期せぬ成功を追求することである。ところが殆どの人が、問題ばかりに気をとられ成功の証を無視する。
事例:訪問看護の運営
残業が増加したのを見て、抑制するのではなく原因を調べた。看護が忙しいのは6時過ぎであることを知った。医療の進歩により、病人が働けるようになり、夜間の治療が増えたためだった。
・成長のプロセスを維持する強力な手法は教えること、移ること、現場に出ること。第一にうまくいったことをどのように行ったかを仲間に教える。相手が学ぶだけでなく、自らが学ぶ。第二に、別の組織で働く。そこから新たな道が開かれる。第三に一年に何度か現場で働く。
・成長の為の偉大な能力をもつ者はすべて自分自身に焦点を合わせている。ある意味では、自己中心的であって、世の中のことをすべて自らの成長の糧にしている。

●「何によって憶えられたいか」という問いかけ
・ドラッガーが13歳の時、先生から「何によって憶えられたいか」と聞かれた。だれも答えられなかった。すると「今は答えられるとは思っていない。でも50歳になって答えられないと人生を無駄に過ごしたことになる」と言った。
・ジョゼフ・シュンペーターは25歳のとき、ヨーロッパ一の馬術家、美人の愛人、偉大な経済学者として憶えられたい、と言った。亡くなる直前の60歳のころ、同じ問いにインフレ危機を最初に指摘したものとして憶えられたいといった。事実彼はそのように憶えられた。
・この問いは自己刷新を促す問いである。自分自身を若干違う人間として、しかしなりうる人間として見るよう仕向けてくれる問いである。運のよい人は若い頃そう問いかけられ、一生を通じて自ら問いかけ続けていくことになる。

第3章 第二の人生としての非営利組織 ロバート・バフォードとの対話

ロバート・バフォード:テキサス州バフォードテレビ会長兼CEO
「リーダーシップ・ネットワーク」および「非営利組織のマネジメントのためのピーター・F・ドラッガー財団」設立

・40代でリーダーシップ・ネットワークを設立した。積み上げていくビジネスの世界から、奉仕の世界である非営利組織への意識の転換が大変だった。
・お金を目標にしてはいなかったが、尺度として用いていた。しかし、第二の人生に入ってからは、尺度も変えた。

●季節の変化
・自分にとって大事なものは何かを知ることは重要。バフォードは20代と40代では全く別人。
・会社のためにしている事と、リーダーシップ・ネットワークのためにしていることは似ている。いずれの場合もビジョンを明確にすることでチームとして機能する。
・大事なものは変わった。リーダーシップ・ネットワークの仕事が中心となり、ビジネスは従属的。20代の頃はビジネス中心だった。
・キャリアを変えることは季節の変化のようなもの。意味のある人生を送りたいと思っただけ。
・ビジネスで一定の成功を収めたことが転機になった。ビジネスで使っていた企業家的方法論を使用している。大義と目的が変わっただけ。
・環境が変わっても重要な問いが「顧客は誰か。顧客にとっての価値は何か」
・ビジネスで成功した原因は二つ。①小さいころから母親が責任を持たせてくれ、失敗するチャンスを沢山くれた。②ルール違反は必ず見つかる、「ずるはしない」というモットー。

●世界を広げる
・ヤング・プレジデント・オーガニゼーションは人間関係を広げてくれた。外の世界に関心をもち、人に会うことによって世界を広げることは、非営利組織にとって重要。
・あらゆる関係者と関係を密にしておくこと。組織の内部にとらわれれば、その世界に奉仕するという本来の役割を忘れてしまう。
・トップは組織の中の人たちの年代の違いにも注意すること。30代、40代、50代はそれぞれ違う。挑戦的だった仕事が退屈なものになってしまう。

第4章 非営利組織における女性の活躍 ロクサンヌ・スピッツァーレーマンとの対話

ロクサンヌ・スピッツァーレーマン:非営利病院チェーン、聖ヨゼフ病院副理事長。
著書「看護の生産性」(1986年)

・看護師から経営者に登用された。それは組織化、コミュニケーション、患者への関心によるものだった。自分の能力は上司から学んだ。さらに様々な指導により成長させてくれた。

●男性社会での女性役員
・トップマネジメントに入る女性は自分だけ。他の病院でも増えてはきているが、まだまだ少ない。病院は軍を手本にした古い組織だが、生産性、柔軟性、組織化の必要が高まれば女性の活躍の場はもっと増える。
・性別は関係ないが、リーダー的存在になりつつある女性の場合はもう少しだけ上手に、もう少しだけ一所懸命にやりなさいとアドバイスする。
・医療の世界での女性はチームで働けることが武器になる。全体の為に自分の持っているものを手放す。人を助けるために部署や担当まで手放す。権限が交差するマトリックス型組織を歓迎する。他の部署のことを考える。
・興味深いのは女性医師は他の女性との仕事が苦手。男性の世界でやってきたために、女性に手を貸すことが苦手なように見える。これは間違っており、役員になるならば、チームで働けるかどうかが鍵。
・病院は家父長的。常勤理事は自分一人の完全な男社会。年配の男性は女性役員に抵抗を感じていた。一方では唯一の女性役員ということで暖かい目線だが、CEO候補ではないことを明らかにしようとしている。
・普段の看護や医療サービスではなく、財務や事業の報告を理事会で行ったとき、女性という壁が破れたと思う。収支や予算枠を勉強していた事が役だった。
・人間関係の能力は自然に身についたと思う。調整力やコミュニケーション能力は試行錯誤で謙虚に学んでいくもの。
・看護については自分なりのビジョンをもっている。それを伝えることに苦労はしなかった。共通のビジョンさえもてば、一緒に働くのは容易。対人スキルとは目標の共有である。
・女性がまだあまり力をもっていなかった1960年代に看護学校を出た。女性の社会進出についても大義ももっていたと思う。
・「頑張りすぎるな」「攻撃的になるな」と何度もいわれたが、信念をもつならば攻撃的にならないことの方が難しい。患者にとってベストを探し続けるのが私たちの務め。ミッションが何かを知らなければ、そこにいてはいけない。
・フルタイムの仕事、10代の娘、自分も学校に行くという生活は目が回る。しかし働きながら大学院に行くことはミッションを生活の中心に置くうえで役立っている。
・娘からは「どうして全部やろうとするの」と聞かれるが、自然にそうなった。ミッションのせいではなく、単に何か役立つことをしたいという気持ちからだった。
・一所懸命にやれば、医療サービスの質の向上やスタッフの生活向上といった課題が見えてくる。怠ける夢は消えて、大変な仕事をもっていることが嬉しくなる。

●成果の評価
・ミッションの達成にどれだけ貢献したかを判断する方法は二つ。具体的な方法は仕事のリストを書き出し、完了のチェックを行うこと。抽象的には博士論文の進捗状況をチェックしている。
・企業と非営利組織も競争にさらされている面では変わらない。コストを意識しながら良質なサービスを提供しなければならない。

●自己開発に力を貸す
・最高の自己開発は、他人の自己開発に力を貸すこと。また、自分の難点を指摘してくれる人が沢山いること。
・答えを出してやることではなく、頭を使うことを助ける。そして実行の段階まで進ませ、ビジョンと目標を明らかにさせる。
・私たちは共同作業におけるイノベーションという分野で傑出している。もし私が明日辞めてもおそらく大きな変化はない。病院は大丈夫。
・本当の活力は責任を与えられたときに生じる。私の場合は最初から最後までプロジェクトを任されたときだった。私生活も活力の源になっている。
・燃え尽きを防ぐにはさらに働くこと。仕事以外でギアの入れ替えも行うことが大切。

「もし私が辞めても、大きな変化はないと思う」
これは組織を預かる者にとって最大の自慢になる。それは仕事、ビジョン、組織を引き継ぐチームを作り上げたという事であり、物事を成し遂げる人の証である。
自己開発にとって最も重要なカギとなるものが、他人の自己開発にリーダーシップを発揮することである。

第5章 自らを成長させるということ

●自ら自分の人生を設計する
・ある人が、自己開発とは人生を通じてのものであることを教えてくれた。
回想:ジョシュア・アブラムズの人生
ユダヤ教徒のアブラムズは学生で戦地に動員され、傷を負った。復員して60歳前後で亡くなった。復員後はユダヤ教の教会で信者数拡大に努めた。5000人規模のシナゴーグ(教会)に育てたのち、「もうあまり得るものがない」と言い、大学の礼拝堂ラビ(指導者)に転じ学生の指導にあたった。それから10年ほどして「大学での役割は済んだ。学生と年齢も離れたし、これからは高齢者の為に働く」彼は私が説き続けた「自分の人生は自分で設計すること。誰も設計してはくれない」ということを体現していた。しかも、彼の人生は自己開発には①人としての成長、②貢献のための能力の向上、という二つの意味があることを示唆していた。

・人としての成長は、自分の存在の外にあるものによって始まる。「何によって憶えられたいか」を問う事と同義であり、答えは成長の度合いによって変わる。この問いを見失えば、人は焦点を無くし、方向を失い成長を止める。
・貢献のための能力の向上とは、自らの強みを伸ばし、スキルを加え、仕事に使う事である。ここでは上司の果たす役割が大きいが、自らの能力の向上は自ら責任である。
・強みを伸ばすということは、弱みを無視してよいという事ではない。しかし、弱みを克服するのは、強みを伸ばすことによってである。完全主義者である必要はないが、自らにいい加減さを認めてはならない。

●能力向上の方法を知る
・貢献という意味での自己開発は、自分からではなく課題からスタートする。具体的には二つの方法があり、いずれも重要である。
①改善:すでに行っていることをさらに良く行う事。
②イノベーション:それまでとは違う事を行う事。
・イノベーションに力を入れ、改善を怠ってはならない。次のステップを可能とする小さなステップを見つけ続けること。逆もしかり。イノベーションを行うべき時がくることを忘れることも愚かである。
・イノベーションは自己開発に不可欠のスキルである。しかも、問題がある時ではなく、うまくいっているときにこそイノベーションは行わなければならない。成果をあげるほど、目の前の仕事、緊急の仕事に没入している恐れがある。
・歩む道を変え、違う世界を見、新しい目的に向かうとき自己刷新がもたらされる。うまくいっているときこそが、外からの助け、良き師の助けが必要である。
・貢献の能力の向上には具体的な方策がある。教えることが最高の方法の一つであり、自らの能力の向上に役立つ。
・自己採点も能力向上の具体的方法である。これは謙虚さを学ぶ最善の方法である。貢献を大きくできる分野に焦点を合わせ、そうでない分野に手を出さないためにも役立つ。

自己開発は人としての成長であり、貢献の能力向上である。
あなたに「明日何をしますか。何をやめますか」と問うて、本書の結びとする。