研究テーマ「小さな介護施設と診療所のマーケティング」について

研究テーマ「小さな介護施設と診療所のマーケティング」について。

長崎大学大学院 経済学研究科 北村貴寿(学生No.16115012)

表題についてKJ法を使用し、現時点で私の知りうる情報や見解を整理した。
先ず、研究テーマ設定の動機だが、「必要性」というグループにまとめた。弊社の介護部門は、介護サービス報酬の減算により収益が悪化している。特に通所介護、訪問介護部門が苦戦しており、2年程前から年間約45%の減収となっている。資金繰りを勘案すれば「何もしなければ」3年で資金ショート=破たんを迎えるだろう。幸いなことに医療部門が好調な業績を続けており、そちらで減収を補てんしている状況である。
通所介護事業は、開設のハードルが低い事もあって、事業所が乱立している。通所介護事業所だけでも現在市内に38カ所が営業しており、所謂「レッドオーシャン」である。そのような状況の中で、地理的な弱点を持つ弊社が、利用者獲得競争に時間とコストをかけるのは非効率であり、事業形態に何らのイノベーションが必要だと考えている。「ピンチはチャンス」とよく言われるように、弊社には変革が必要だ。開設から20年を迎え、苦境に立たされている今こそ、新たな介護サービスを構築し、赤字からの脱却を図らなければならない。その為に必要なのは現在弊社に欠けている「ワンストップ・サービス」そして「マーケティング」である。

「ワンストップ・サービス」については必要を再三認識しながらも対応が遅れていた。「介護事業の今後の方向性」というグループにまとめてあるが、弊社の施設では、自立した生活を前提にしているケアハウスという性格上、介護度が上がると(=重度化すると)、医療や重度介護への対応力不足で退去となるケースが多い。利用者やその家族からは「ここで最後までお願いできないのか?」という所謂「終の棲家」として、看取りまでを任せられるサービスへのニーズが高いのである。現在設立計画中の新施設は、重度化する介護に加えて、医療へのニーズを満たすことができる体制を取らなければならない。現在、小規模多機能施設に有料老人ホームを組み合わせた設計を進めているが、小規模多機能施設については、大村市の事前協議を経て、県への認可申請が必要となる。行政との連携を今以上に深めなければならないし、許認可のスケジュールに柔軟に対応する事が求められる。幸い医療部門を展開しているので、介護に必要となる内科系や整形系の医療コネクションは既に確立していると考えて良い。
また、入居に係る利用料金について再考しなければならない。「価格」というグループにまとめているが、弊社のケアハウス入居料金については県が定めている。また、入所一時預託金50万円(退去時に清算)を設定していたこともあり、弊社のケアハウス入居料は高価格だ、という認識がなされているという話を聞いたことがある。現在入居一時金については、50万円を入居時に預託するこれまでと同様のコースと、月々分納するコースを設定しているが、毎月の利用料金については県が定めている為、改定が難しい。入居者の収入により月額8万円弱から15万円弱までと開きがあり、これに重度化に対応する為、介護保険サービスを組み合わせて一部負担金を加算すれば、毎月10万円を超すケースが多くなる。介護にかかる費用が毎月10万円を超えると高額な印象を持たれるようだ。新施設に計画している有料老人ホーム利用料についての設定は弊社に委ねられる。重度化し、介護保険サービスが必要になれば、利用者から得られる収益の柱を介護保険サービスとし、有料老人ホームの入居料は低価格に押さえ、月々10万円程度で看取りまで行うサービスを構築すれば、入所待ちが続く特別養護老人ホームと同様のサービス、および価格となる。特別養護老人ホームは全国どこの地域でも入所待ちが続いており、大村市でも同様である。弊社の新施設はその受け皿となるため、看取りのニーズと価格を実現しなければならない。

「理念」「ケアの質」にまとめたものは、弊社が利用者から選ばれるサービスを構築するには、価格と同様に重要な要素である。弊社の基本理念は「親切・丁寧・笑顔を忘れず、仕事を通して社会に貢献します」というものである。毎朝の朝礼や会議で斉唱し、職員の間には浸透しているようだ。ただしそれに続く「職員心得」は長文なので私を含めてそらんじる事ができる職員はいない。これも毎朝斉唱しているが、仕事を始めるリズムをつけるようなものだと考えている。弊社の会議にご出席頂き、理念と心得斉唱を聞かれた外部の方からは称賛されることが多い。職員の「まとまり感」を感じて頂いているようだ。これは開設から20年という年月が培った弊社の強みともいえる部分であると考えている。ただ、やみくもに墨守していれば良い、というものではないとも考えている。この理念と心得は私一人で作ったものでもあるからだ。開設20周年を機会に、心得や朝礼のスタイルを職員全員で見直してみようと考えている。
また、ケアの質が高いかどうか、が最も重要である。「会社が職員を大切にしなければ、職員は利用者を大切にしない」というのは私の経営理念であり、サービス業の鉄則であるのではないだろうか。ただ、ここで勘違いしてはいけないのは「大切にする=甘やかす」という事ではない。「大切にする」とは私と職員との関係が、共有の目標をもった良き友人であり、時に助けある隣人であり、成長を促す良き先生、という関係になる事だと考えている。ケアの質の高さは、職員の人間性の高さがその源である。その上で職域に関する技能を高めなければ、めっきが剥がれる事になるだろう。私は、職員の人格や技能を磨き高めるような職場環境をつくらなければならない。現状はどうか。まだまだ満足できるレベルではない。先は長いように感じているが、職員の物心両面の幸福を追求する事が経営者としての使命である。

その使命を果たすためには、原資となる利益を上げなければならない。業績を向上させる為には目標が必要であると考えている。会議では利用者獲得目標について話すこともあるし、数値目標も掲げている。しかし目標の管理、徹底は出来ていないように感じる。「目標」というグループにまとめているが、業績を数値のみで測る事は難しい側面もあると考えている。いたずらに数字を追い求めると、社内の空気が悪くなるような懸念があるのではないだろうか。しかし、数値目標を使わないでよい、という事でもないように思う。利用率に連動するインセンティブも必要なのかもしれないが、迷うところだ。介護サービスをゆったりした雰囲気の中で受けて頂く為には、数値目標を追い求める職員の姿はそぐわないだろう。悩みどころである。
弊社の介護サービス事業者として平成8年に創業した。当時、大村市内に通所介護を提供する事業所は3社しかなく、市場はフロンティアだったと言っていい。しかし、20年の間には様々変化が訪れた。特に介護保険制度の開始は、市場への新規参入が相次ぎ競争は激化した。「コムスン」に代表される介護報酬不正受給事件なども散見されるようになった。
年々厳しさを増す環境の中で、事業を継続してきたのだが、この減収のインパクトは初の体験であり、大きな危機感を抱いている。その危機感が、弊社の介護事業形態を拡大する源泉なのだが、既に介護事業サービス市場は成熟市場と言っていい。何もしないで利用者からの相談を待つ、という受け身の姿勢では生き残る事などできない。その上で弊社に不足しているのはマーケティングである。特に弊社の情報を消費者に伝える、所謂広報に取り組んだことは殆どない、と言っていい。サービスの質を上げ、事業形態を革新しても、その内容が消費者に伝わらないと、選択肢にさえなりえないのである。これまで弊社が行ってきた広報については「広報の手段」というグループにまとめているが、お寒い限りである。しかし、逆に考えれば、そこに伸び代がある、と言う事ができるだろう。介護施設の効果的なマーケティングを研究、実行し新施設を軌道に乗せたいと考えている。

効果的なマーケティングを展開し、利用者の獲得に繋げて行く上で「地域包括ケアシステム」の影響を考慮する事は避けては通れないと考える。2025年問題に対処する為、政府が打ち出した社会保障政策である。厚生労働省によれば、「要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるような地域を構築する」とあるが、その中核となるのが「地域包括支援センター」である。大村市は、本年4月から中心市街地の廃屋となった元浜屋百貨店ビルをリノベーションし、長寿政策課、障害福祉課、在宅医療サポートセンター、医師会、歯科医師会、薬剤師会が同居するビルを始動させる。大村市の介護福祉政策推進本部、と言った陣容である。地域包括支援センターはこの中に設置される。市民の為の介護に関わる総合相談窓口となる機関であり、介護サービスを必要とする方々が初めて訪れる可能性が高い。公共の機関なので、介護サービス事業所の斡旋を行う訳ではないが、紹介をする機関ではある。相談窓口で相談者に市内38カ所ある事業所全てを公平に紹介する訳ではない。相談者のニーズをくみ取りながら、数多くの事業所の中から数か所を選択し、提案をする機関だ。よって利用者を獲得する為には、この機関との連携はかなり重要だ。この機関に配置される人員に、弊社の存在を深く認識して頂くことは重要である。現在の支援センターのカウンターには様々な介護サービスのパンフレットが山積みであり、散乱していると言ってもいい状態だ。このような状況下で、弊社の存在を印象付けるには、定期的な訪問営業が必要だと考えている。泥臭いスタイルの営業だが、支援センター職員との信頼関係を築くには顔が見える関係を構築する事が必要だと考えている。

診療所のマーケティングについては、様々な制限がある。その最大の原因は医療法における病院等の広告規制である。ただし、長崎市内には脱法的なテレビCMを行う病院も見られ、地域により広告規制の厳しさにムラがあるようだ。幸いなことに医療部門の業績は好調で、介護部門の減収を支えている状況であるが、広報手段についての調査、情報収集が不足している。医療部門おいても効果的なマーケティングが構築できれば、弊社の業績は更に向上させることができると考えている。
昨年の事だが、弊社の介護部門は大村市の公募する特別養護老人ホーム事業者へ名乗りを上げ、プレゼンテーションを行った。5社が競合し、落選という残念な結果であったが、その挑戦には大いに意義があったと考えている。弊社職員が審査員にアピールできる「強み」を見つけ、特養の必要性を語り、幾度もリハーサルや想定問答を繰り返した経験は、私たちを成長させてくれた。落選という結果にはなったが、それを受け止め、新施設の建設を決断したのである。計画が進む新施設は、社運をかけたプロジェクトであり、必ず成功させなければならない。その為に弊社にはマーケティングが必要なのである。

以上、研究テーマ「小さな介護施設と診療所のマーケティング」について、現時点で私の知りうる情報や見解等を、KJ法を使用して整理、分類し、ここに報告する。

文責:北村貴寿

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注:このレポート提出後、研究テーマの変更を検討中。

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