デフレの正体

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く

藻谷 浩介 (著)

日本政策投資銀行参事役(他政府系公職多数)の藻谷氏。
今年のサマーコンファレンスでも分科会の講師役を務められました。

私は二度ほど講演を拝聴しましたが、素晴らしい説得力。

理論派でデータを多用。全国各地津々浦々へ自身で赴かれ、足で稼いだ現地の情報、情勢にはかなりの破壊力が。
旧守派、既得権益層への批判の舌鋒も鋭く日本経済の情勢を解かれる様は、単なる御用学者ではありません。氏の講演は手放しでお勧めできますよ。

その藻谷氏のベストセラー。

人口ピラミッドが現在の日本経済を包み込んでいる「デフレ」「不景気」の原因であり、その日本経済の不安、不透明さを「数字」によって明快に解読していく痛快な良書。

時に出てくる氏独特の皮肉たっぷりの現状批判も小気味良い。講演調の文体で、身近なたとえが多いので分かりやすい。
(これまで三千回以上、多い年は400回以上の講演をこなしたそうです)

論壇で語られる曖昧な提言、成長戦略や生産性向上などといったスローガン的な主張とは一線を画す良書です。

高齢化率より高齢者数
失業率より失業者数
出生率より出生数
前年比率より前年差

(人口分布に差がある地域間を計る場合は「率」を使用してますが)

とにかく「実数」の長期トレンドを把握して議論をスタートさせること。

「意見」ではなく「事実」をみて論じる。
思い込み・常識といわれる見方を排して経済を俯瞰して論ずる、というところでしょうか。

今後の処方箋「それではどうすれば良いのか?」の提案にはさほど目新しさはありません。

1、世代間の所得移転
2、女性の社会進出
3、観光による外貨獲得

常識的なものばかりだし、現在も政策的に大なり小なり実行されています。

更に加速させる必要があると私も思いますし、その根拠が明快に分かりやすくに書かれているので得心してしまいます。

一部には疑問な部分「生産世代=消費層=内需拡大」という公式には異論もあるのですが、高齢者層よりはマシに違いない。

三度ほど読み返しましたが、私の経済観をさらに固めてくれたような気がします。

しかし余命3年といわれる日本経済の動向については多くを触れられていません。

国内ファイナンスされている900兆円の国債バブル
改善されないプライマリーバランス
目前の超高齢化社会における社会保障費の激増

これらが日本経済を破綻させるのは必定といわれています。

そんな超高齢化社会に対する巻末の提言は「ファンタジー」だと言ってもいい。

それは「政治的に不可能」だから。
(そういや最近もファンタジー講演を聞いたな)

著者自らも暴論でありビジョンである、と記しています。

考え方は全く賛同できる。
というか、それしかないと思う。

その主張は著者のみならず、急進的?な論者も唱えていることだ。
しかし現況の年金制度を根底から覆すことは、与党どころか野党でも無理な話だ。

それは著者自ら論じている「人口の波」を見れば分かること。

高齢者は投票に行き、若者は投票に行かない。

「後期高齢者医療制度を廃止せよ」という主張に与してしまう有権者がある日突然開眼する筈もない。

そんな現実が氷河のように横たわっている。

だから「ファンタジー」

若年世代の投票率向上は世代間格差を縮小する上で命題となるだろう。
私もそれを何とかしたいと思っている。
そして行動も起こしてきた。

しかし、余命三年といわれる日本経済に残された時間は短すぎる。間に合わないような気がする。

結びに描かれる日本の未来の姿には感銘するし、そうなるだろうと思う。

草莽のリーダーが現れ、国民の雑草力がこの国を再び輝かせる。

「人口が減少する中、雇用と内需を維持しつつ生産性を高める」という難題を解き、中国やインドといった超高齢社会となる国家のモデルケースとなる。
アジアの将来、先進成熟国家の将来を示す国になるであろうという予言は当たるだろう。

私もそう信じている。

しかし著者は確信犯ではないか。

その「過程」を意図的に隠しているのではないかと穿ってしまう。
それは「希望が必要だ」という思いからくるものではないだろうか。

著者は全国各地を歩いている。
地域を何とかしたい、という思いを持つ人々に現実と処方箋とビジョンを解いて回っている。

氏は憂国の思いをお持ちだと思う。

なので現実を語るだけではダメだ、と思われているのではないか。

震災でデフォルトへ加速する、という説には力がある。
多かれ少なかれ混乱は起きるだろう。
それは70年代に体験したオイルショックのような経済混乱ではないという。

しかし、震災が日本人に思い出させてくれたものもあるはずだ。

それは日本人の美徳。
驕りでは無く誇り。
利他の心。
愛国心。

それらを失わない限りこの国が凋落する事は無い。

日はまた昇る、のだ。

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