山形県南陽市「南陽市文化会館」

総務委員会にて「菊とぶどうといで湯のふる里」山形県南陽市を訪れ、世界最大の木造コンサートホールとしてギネスブックに認定された南陽市文化会館について視察を行った。
南陽市は人口約3.3万人、財政力指数0.42、一般会計158億、面積160㎢。東に奥羽山脈をひかえ、南から西にかけて吾妻山系と飯豊山系に囲まれた山形県南部の置賜盆地に位置する。北部は産地で南に沃野が開け、気候に恵まれており、米、野菜、果樹などの栽培が盛んである。また、開湯920年を誇る名湯赤湯温泉、日本三大熊野と呼ばれる宮内熊野大社などの歴史と伝統を持つ。鉄道・国道が結節する県南の交通の要衝でもある。 平成42年に市政を施行。中国河南省の南陽を「南陽菊水」と形容し、「北に丘陵、南に沃野まことに住みよいところ」という。市の特徴とよく似ているこの字義をもって当時の県知事が「南陽市」と命名した。

 

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・6本の木柱が印象的なエントランス。

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・それぞれの木柱に山の名前が付いていた。

 

建設に至る経緯は、昭和43年に建築された旧市民会館の老朽化によるものである。旧市民会館は716席、バリアフリー未対応、駐車場が狭く利用もしづらく、耐震性も不安視されていた。平成8年に建て替えを訴える1万1千名(市民3人に一人!)の署名や、市議会に請願が提出される。

 

平成23年に東日本大震災が発災、耐震強度の不足も指摘され庁内の検討が開始。平成24年に市民懇話会、平成25年に専門家委員会を発足させた。
専門家委員会は音楽家・坂本龍一氏をはじめ、尾崎豊を育てたプロデューサー・福田 信氏、(株)キョードー東京代表取締役社長・山崎芳人氏など、国内の名だたる人材7名にて構成される。さぞや招聘に係る費用も、と勘繰ったがさにあらず。交通費程度で会議に参加して頂いたという。よほどの人脈があったのか、と質問したが前市長のトップセールスによるものだ、という事だった。

 

名だたる芸術家達が自分たちでホールを設計するという仕事に魅入られたのだろうか。山形で一番使いやすい、全国ツアーの興業を可能にするホールを、ということで16回!も図面を引き直し、「人とまちが育つ文化の創造」をコンセプトに国内初の大型耐火木造ホール、南陽市文化会館が平成27年10月に誕生した。

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会館の目玉は1403名収容の大ホール。世界最大の木造コンサートホールとして、ギネス世界記録に認定され ている。何の飾りけもない箱型のホールだが、これも専門家委員会によるもので、意匠を凝らさないほうが音の響きが良い。加えて木造の為、音がまろやかになっているという事だった。

 

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宝塚も上演できる舞台という考えの下で設計され、多くのバトンや、可動式の反響板、大勢同時にドライヤーを使える控室等に配慮が見られる。

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・それぞれの座席下から空調する。舞台前列は可動席で生オケ可能。

 

空調は木質バイオマスボイラーを導入し床下から。熱効率の良さに加え、静穏が実現したという。資材搬入口はトレーラーが二台同時に進入可能で、舞台袖に直結。これも専門家委員会による「使う側」の目線によって作られた。除雪機器が設置されているのも東北ならではだ。

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小ホールは500名収容の平土間形式。電動で客席が移動し防災センターに転用できる。

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キッズコーナーは開館中無料開放。木材の暖かみを最大限に活かした作りで、子育てグループが自然発生しているという。

 

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キッチンスタジオはテーブルや調理台は可動式。シンクや調理機は壁際に設置されている。レイアウトが自在で配水管や電源が床に無いため、汎用性が高いという。大村市の交流プラザに作られたキッチンスタジオとは真逆のコンセプトである。

 

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その他、練習室や総合工房、会議室、有機EL照明の和室を備える。詳細については添付資料を参照して頂きたい。ホールのベンチや調度品、備品にも徹頭徹尾アーティスト目線が貫かれ、木造にこだわりぬいて作られた素晴らしいという他ない施設である。

 

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引き渡し式で施工技術者が感極まり涙した、という世界最大の木造ホールの建設は困難な課題と挑戦の連続だったという。最大スパン28m×奥行35mの大空間を支えるのは立体トラス梁と5本組柱。

耐火性と強度を両立させるのは(株)シェルターが特許を取得している「クールウッド」である。南陽産スギ材を使用したこの木柱は、一辺400㎜の集積材を84㎜の石膏ボードでくるみ、外側に16㎜の化粧板を貼り付けてある。

 

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ちなみにこの石膏ボードは「タイガーボード」で有名な吉野石膏(株)の製品。明治34年創業の吉野石膏(株)は、南陽市吉野地区にある吉野鉱山から石膏を採掘したのが始まりとのことだった。

使用された木材の送料は、10tトラック1,774台分。南陽市の面積60%が山林であり、地域材の使用率は46%。木質バイオマスボイラーには間伐材のチップを使用しており、山林の保全と雇用にもつながっているという。

 

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財源が脆弱な地方自治体で、近年大型の公共施設を整備しているのは、そのほとんどが合併特例債によるものである。大村のお隣、諫早市が新たに整備した市役所や図書館などもその類であり、合併の見返りとして国が70%を負担する。南陽市文化会館の総工費は66.5億円。当初はここもその類かと考えていたが、そうではなかった。

66.5億の内、50%弱の32.94億は林野庁の補助金などを活用している。残りは南陽市の基金や一般会計からの手出し、人口3.3万の小さな自治体にとっては巨額の財政負担といえる。想像通りであるが、市民や議会からの相当な反発があったという。RC構造で整備すれば30%程総工費は減額できるという試算もあったとの事だが、この計画を貫徹させたのは前市長のリーダーシップによるところが大きいという。担当部局も市民の理解を得る為に相当数の説明会や懇話会を開催したとのこと。

 

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会館が完成してみれば、ギネス記録認定もあいまって、報道にも取り上げられ、全国各地から週に5日の視察団を受け入れている。山形に来たことが無かった著名アーティストの興業が実現し、反発の空気は吹き飛んだ。9月にはMr.Childrenのコンサートが予定されている。同アーティストは現在東京ドーム等、2万人クラスのコンサートを開催するビッグネームである。職員の2年がかりの営業で招致が実現、問い合わせ当日は電話がパンクしたとの事。市内外からの交流人口が増大し、観劇後は赤湯温泉に宿泊という流れが発生。温泉と芸術のまちづくりが実現しつつあり、交流人口の質に変化が起こっているという。

 

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今後の課題は、運営コストの削減や指定管理の移行。地域の文化の拠点として若い世代の文化の似合い手作りなどをあげられた。興業収支等を除いた年間のランニングコストは9700万円、収入は4000万円程度であるから、恒常的な赤字体質。ネーミングライツも検討しているという。現在は「南陽市文化会館」というごく一般的な命名がなされているが、今後ネーミングライツによる収入を狙おう、という専門家委のアイディアによるものである。

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ランニングコストには行政職員の人件費は含まれていない。その上、年間6000万円弱を超える手出しとなっており、一般会計158億の南陽市にとっては、かなりの負担と言っても良いだろう。これを単なるコストと見るのか、市の文化醸成かかる必要経費と見るのかは見解の別れる所だ。完成直前の平成24年に市長選挙が行われ、この計画を推進してきた前市長が46歳の若手候補に敗れた。新しい市長は会館の規模が大きすぎる、と現職を批判して当選を果たしている。 政治と文化の関係がどう変化していくのだろうか。

 

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・所見(事業採択の可否も含む)
大村市民が長年親しんだ市民会館。先般、県立市立図書館新築の為に閉館となった。これで大村市には1000名クラスのホールが存在しない事になる。シーハットメインアリーナが数千名規模のホールとなりえるのであるが、音響や設備を鑑みても芸術文化を充分楽しめるホールであるとは言い難い。ただし、財政状況や市民会館大ホールの稼働率を鑑みれば、新築の必要が急迫しているとも言い難い状況だ。

文化の醸成に係る事業費をどのような視点でみるのかという議論や費用対効果の検討を充分に行うことが必要であり、軽々に新築を訴える事はできないが、個人的には大村市にもこのような素晴らしいホールが必要だと考える。人はパンのみにて生きるにあらず。まちの魅力を引き出す、作り出す施設が欲しいところだ。新たなホールをつくると決断すれば、文化の担い手の目線にこだわり抜いて創り上げられた南陽市文化会館の整備事業は、大いに参考になると考える。

文責:北村貴寿

 

 

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