財政危機と社会保障 鈴木 亘
奇しくも昨日19日の日経新聞経済教室に寄稿されていた著者。
「世代間格差」という言葉の生みの親でもあります。この話は最近一般的になってきましたね。
私も市長選のマニフェストでは氏の論文から格差是正の為の政策を立案したっけ(惨敗でしたが)
現行制度では高齢者と今から生まれてくる子どもたちの社会保障費(年金、介護、医療等)における需給格差は8000万以上になる、という推計に立ち、与党となった民主党が展開する社会保障政策への批判と持続可能な社会保障改革案を提示してある。
一般的な事を押さえておきましょう。
2010年で
国の一般会計は92兆
国の総債務は973兆
社会保障会計は別会計で87兆
社会保障会計は毎年1兆円支出が増加
一般会計収入の約48%は借金(公債)
〃 支出の約22%は借金返済
〃 の約29%は社会保障関係費
現在の対GDP債務比率は敗戦直後並み
戦後の債務はインフレ税によって相殺された
出版は2010年なので「管」政権。
首相が打ち出した「強い社会保障」「中福祉・中負担」「医療・介護を成長産業に」というスローガンを「バカ言うな」とばかりに酷評しています。
私も業界人のはしくれ。氏の主張は皮膚感覚で当たってるよなあ、と思います。
前著 では「世代間格差がある」とされる推計を丁寧に説明してありましたので、現行制度の欺瞞や矛盾点についての記載はほぼ共通。政権批判、というかこれまでの社会保障政策批判が目立つ内容です。
財源論については消費税についての記載がありますが、増税を前提としない上での改革論。出版が2年前なので齟齬が出てきていますが、それでも頷けるものが多い。
消費税増税をしない、という前提に立てば、給付やサービスをカットするしかない。という話ですね。
加えて参入規制を緩和し民間力を活かす主張。
混合医療、混合介護、規制緩和、既得権の打破、全体的にはフリードマンに近い主張です。関係団体は反発するだろうなあ、なんて。
日本経済を牽引する「成長産業」とは公費や補助金に頼らずとも「自分で成長できる産業」、社会保障が成長産業になることはあり得ない、とのくだりにはホント納得です。雇用の受け皿にはなるでしょうけどね。
ただ先進医療は除きます。新薬の開発などと合わせてココは国外から稼げる分野かも。
巻末には「政府の方針は大間違い」という一言を言う為に丸々一冊書き上げた、とのくだりが。
著者は結構ハードな改革派ですが、それも国や子どもたちの未来を憂いての主張なのだと思います。
読みやすく、分かり易くと心がけて書いたそうですが・・・その狙いはどうでしょう(笑)
増税しなくても無駄をカットすればなんとかなる。
埋蔵金がある。
増税する前に身を切るべき。
景気を回復させれば増税しなくて済む。
昨今良く耳にする言葉です。
有権者には耳触りが良い言葉ですね。
だれだって増税は嫌なものですから。
ただし、その論法はこれまで増税される度に、同じ事が語られてきたのを忘れるべきではありません。
そして全く好転していない、という現実も直視すべきでしょう。
派遣村の湯浅氏が政府参与になり「知らないことが多すぎた」と吐露して官邸を去ったことは記憶に新しい。
社会保障政策を語るならば押さえておく必要はある1冊だと思います。