坂の上の雲 全8巻
司馬 遼太郎 (著)
いわずと知れた不朽の名作、著者が10年をかけたという大長編です。
このような名作に書評など全くはばかられます。感想文ということで。
内容はご承知の通り日露戦争を中心に明治の空気を描いてあります。
維新後に誕生した”国家”という新しい思想に翻弄されつつ、志高くそれを遂げようとした文人と軍人たち。
”かくあるべし”といった押しつけがましい描写ではなく、ただ懸命に生きた男たちの命の輝きが眩しいですね。陸戦の戦争描写は少々間延びしているところもありますが、クライマックスの対馬海戦は一気に読める。面白かったです。
黒鳩金や伊地知については相当批判的、神格化されている?乃木についても一定の批判がありますが異論も多々あるようですので「小説」と割り切ったほうがいいのかも。著者本人のあとがきの中で触れていますが乃木の描写についてはバッシングを受けたようです。
ただ、その批判の原因となった戦術戦略・組織論については反面教師だな、と思ったりしました。
列強と呼ばれた国々の複雑に絡み合ったパワーバランスの難しさを感じますし、権謀術数こそが外交力、国家国民の命運を左右するのだなあと思ったり。
この戦勝に浮かれた国民や軍閥が、冷静さを欠いて精神論に重きを置きすぎ、大東亜戦争に突入した事への警鐘がそこかしこに描かれてもいます。
私はあんまり小説は読まないのですが、文中には時々ハッとさせられるような美しい文章があったり、久々の文学を楽しめました。
個人的には1,2巻と最後の8巻、あとがき集が面白かったです。
私も現代の日本に残された唯一の戦、選挙に挑むものの一人。
沢山の示唆を読み取れたような気がします
どんなときも坂の上の雲を追いかけるオプティミズム=楽観主義は忘れないようにしたいものですね。
そればっかりでは困りますが。
ともかく不朽の大長編。お勧めです。