経営戦略論「戦略の経営学」レポート

sennryakuron

経営戦略論 学生:北村貴寿

テキスト「戦略の経営学/ディビッド・ベサンコ、ディビッド・ラノブ、マーク・シャンリー」

■第Ⅰ部・企業の境界 第1章・近代企業の発展

○企業戦略に関する普遍的な経済原則を明らかにする

→マネージャーへの貢献

○多様な事業状況に経済原則を適用できるか?

→3つの時代で検証(1840、1910、今日)

・事業インフラと市場がどう影響したか?(企業規模・活動範囲・企業組織の対応)

・3時代の対象根拠

1840年以前:小さな企業規模、限定的な地域

1840~1910年:インフラの変化による巨大な企業規模、協調と管理の問題

1910年以降:通信とデータ処理の革新による事業環境対応力の向上、変化の加速

 

■1840年の世界

○1840年の事業

・当時の事業家達:ファクター(販売代理人)、エージェント(買付人)、ブローカーとその事業

・ブローカーの助け(情報)をかりたリスクのある売買

情報→ファクター、エージェントの顔ぶれ、供給の目途、需要の大きさ

リスク→売買価格の変動リスク(生産地と取引地の距離によって比例)

・少ない情報と高リスクの影響

→事業の性格を決定づける。所有と経営の分離が進まない。銀行の事業拡張融資が消極的。

 

○事業環境「近代的なインフラの無い状況」

・貧弱なインフラ

→家族経営の小規模事業が多い

・インフラ整備における政府の役割

→輸送、通信、金融、生産技術の為の基礎研究

 

○輸送

・鉄道の普及

→馬車からの代替が進んだ。しかし、アメリカにおいて統合輸送の開発完了は1870年。

・水路

→鉄道が開発されるまで長距離輸送を担う。エリー運河の開発によりイリノイ州の人口は15万7000人から47万6000人へと3倍に。シカゴは500人から4000人以上へと8倍に増大。

・運河と鉄道によって成長は進んだが、安全かつ信頼性の高い大量輸送は未確立。

巨大企業の出現までには至らず。

 

○通信

・長距離通信は郵便が中心

→馬による配達。誰でも利用できるが時間がかかり高価。通信量の拡大に対応するのは困難。1845年および1851年にアメリカ郵政省が料金を大幅に引き下げた後、商用通信の量が増大。

・電信の広まり

→1830年に開始、1852年には殆どの鉄道線に対して敷設。1870年にはウエスタン・ユニオン社が最大企業の一つになり成長に必要な通信インフラを構築。当初はその価値が不明瞭で企業の採用は進まなかったが、価格決定など重要かつ緊急なメッセージの為には妥当なコストだと判断し始めた。

 

○金融

・金融インフラは未発達

→長期的、大規模な借り入れが困難、ほとんどの事業体は合名会社。株式取引は低調で価値が上がらなかった。

・民間銀行の主たる役割

→短期信用貸しの付与。1820年のアメリカには300以上の銀行が1837年には788行となった。

・1837年恐慌のような周期的な不況、好況が繰り返された。

・小企業への融資

→融資を受けるには困難。貸し付けは正式な手続きではなく、個人的な繋がりによって行われた。小企業の可能性が制限。

・大型プロジェクトへの融資

→政府や私的コンソーシアムが大型プロジェクトへ資金提供。1840年以降、投資規模が拡大。資金調達は民間人や小さな投資家グループから政府や投資銀行へ。

 

  • 事例「シカゴの台頭」

・アメリカ中西部都市間の競争

→シンシナティ、トレド、ピオリア、セントルイス、シカゴは通商の中心の座を巡り激しく競争。インフラと技術革新によりシカゴの商業組織と金融資産が突出。中西部生産の穀物を全て取引、精肉業界を支配。

・競合とは異なる方法で繁栄

→冷蔵貨車により精肉の価値を維持。穀物エレベーター、先物取引により大量の穀物を扱うリスクを低減。

・インフラへの投資の必要性の拡大

→鉄道、冷凍設備、穀物倉庫、先物市場の発展が起業に必要であり、投資の必要性が生じた。その為には取引量、スループット(投入物と産出物が生産プロセスを通過すること)の拡大が投資回収の条件であり、必要なインフラ(東部と西部からの鉄道と水路の結節点)が備わっていたシカゴが台頭した。

・ハブとして発展

→シカゴの成長を促進する企業家の努力により東西南北への鉄道の重要なハブとなった。いったんハブとして台頭し始めると、他の鉄道もシカゴを通過しやすくなり更に大きな輸送の中心地となった。

 

○生産技術

・未発達な生産技術

→前世紀の技術での企業活動が主流。当時の最新技術でも大量生産は難しかった。企業活動の広がりの制約の原因でもあった。主な動力源は家畜であった。

 

○政府

・公共インフラ整備の担い手

→民間は競争相手を利するインフラ投資は行わない。政府機関は競合しないので公共インフラ整備を担う。1820年から1838年まで18の州が運河6000万ドル、鉄道4300万ドル、有料高速道路450万ドルの信用貸しを行った。1840年の政府は1830年と比較すればインフラ整備には関わらなかった。

 

○要約

1840年における経済活動はインフラ不足に制限されていた。現在のようなプロ経営者はおらず、オーナーが企業を運営した。

しかし同時に輸送と通信のインフラ整備が進むことにより、大規模な経済活動が可能になり始めた。

 

■1910年の世界

○1910年の事業

・プロフェッショナル・マネージャーの誕生

→1840年から1910年の間、事業は急速に変化・成長。大企業が多くなり、日常の意思決定には大きすぎたのでプロフェッショナル・マネージャーという新階層が出現した。

・階層型企業の発展

→インフラと技術の変化、大量生産技術の開発(ベッセマー製鋼法・連続生成タンク炉等)により発展。低コスト生産の実現

・成長への必要条件

→原料の安定供給、広範囲の流通、販売店へのアクセス、固定的な投資、スループットの拡張。スループットはインフラ開発(鉄道、電信・電話、銀行と会計制度)によって確保。

・生産体制の再編成

→新技術への投資回収の為に生産力向上とスループット増加が必要。新技術の活用には生産体制の再編成が必要。企業オーナー経営者の責任も増大。本社調整機能の必要性も増加。

・垂直統合への志向と生じる業界

→製造業者は原料生産や完成品流通を自分で行うようになった。大量生産による供給と流通のギャップで生じるリスクを回避した。

また、垂直統合が生じるのは大量生産によりコスト削減ができる新技術が生じる業界(鉄鋼、化学、機械)であり、新技術が生じない業界(繊維、家具製造)では垂直統合は生じない。

・水平的拡大

→多品種生産による事業の拡大が進んだ。規模の拡大と複雑さも発生し、事業部制組織として再編成された。

・競争の制限

→垂直または水平的統合された企業の成長とともに業界内の企業数は減少し、合併と非公式な提携が発生、競争の制限に繋がった。これは独占状態を生み、利益を増大させた。アメリカ政府は独占解体の為、反トラスト活動を指示した。

・人事管理機能の発生と手法

→統合した企業は、複雑で相互に関係した仕事に多くの人を採用。従業員管理の為、体系的な手法を取り入れた。経営コンサルタントの影響もあり、あまねく浸透した。

最も知られている手法は「科学的管理法」(フレデリック・W・テイラー)で時間と動作の研究により最も効率的な方法を識別、インセンティブや制裁を駆使して最適労働を強いるものであった

・経営階層の発生と発達

→市場の「見えざる手」に代わり「見える手」を用いる階層型組織には経営管理が必要となった。様々な機能を横断・調整する為の経営階層が必要となった。

経営階層が発達するとプロフェッショナル・マネージャーが出現した。企業オーナーに代わり事業管理と調整を行った。彼らはデータを標準化されたかたちで集める方法を見つけ出し、初期の原価計算に繋がった。

・産業界の変化による問題

→過剰拡大や過剰設備、官僚主義や形式主義、労働組合との暴力的衝突といった問題が発生。企業オーナーの利益の為に働くことをどう保障するか、といった新たな問題が提起された。

 

○事業環境「近代的インフラ」

・重要な新しいインフラは輸送と通信において1910年までに出現。全国的な市場の成長を促した。

 

○生産技術

・1840年と1910年の間に大きく変化し、廉価な大量生産の成長を促進。

 

○輸送

・鉄道網が継続的に成長、確実なスループットを可能にした。大量流通業者のシアーズは鉄道により広く散在した顧客に、多様な消費財を効率的に配送した。

 

○通信

・電話の重要性が高まる

→通信の正確さや迅速さが向上し、企業の取引量は増大した。中でも電話が台頭し、大規模生産と販売を支えた。発明当時はその可能性は未知数、特許紛争等で混沌としていたが、1880年までに特許紛争は解決され、新技術が統合された。多くの利用者を低コストでつなぎ電話は電信に代わって急速に広まった。

 

○金融

・証券市場が活発化

→金融インフラは信用情報機関や分割払い融資、通信インフラの開発により更に発展した。

・会計の発展

→広がる企業活動の記録の為、報告についての新しい手法が必要となり、会計手法が開発、上場企業の会計報告基準が法制化された。

鉄道:運行効率管理の為の原価計算の刷新

マス・マーケティング会社:利益を売上高の変動と関連付ける為の在庫回転率

・会計報告と会計士の増加

→会計報告は投資家の為に正確で詳細な企業情報を公開するという概念になった。

1844年~1900年、イギリスで制定された法律は株主総会への正確な情報提供、利益からの配当、資本の保全、監査の実行を要求。

アメリカでは1883年に独立会計事務所が設立、1866年に公認会計士協会が組織された。

 

○政府

・規制の増加

→会社法と企業統治、独占禁止、労災規定と労働者保護、寡婦及び遺児の為の保険など規制が増加。企業の振る舞いや経営に影響を与えた。政府は経営者事業運営データを収集させた。これはプロフェッショナル・マネージャーにとっては有効なものであった。

・教育による労働能力の向上

→全国民の中等教育義務が先進国の標準となり、大企業が求める専門的ニーズを満たす労働力を生み出した。

 

○要約

・経済的インフラの拡張

→低コストで市場や生産ライン、生産量を拡張。新技術が標準化された大量生産を可能にし、鉄道網の発達が全国市場への流通を確実にした。電信によって地理的抑制を克服し、金融の発展により大規模な商取引が可能になった。

・企業の再編成

→垂直および水平に統合された企業が大量生産によるコスト削減を活用する為、自社の再編成を行った。プロフェッショナル・マネージャーが台頭し、重要な意思決定を下すようになった。

 

■今日の世界

○今日の事業

・1910年以降ビジネスの手法は大きく変化

→グローバル競争時代の到来。ニッチ企業が低コストで注文生産を可能にした。大量生産によるコストリーダーシップ企業は変化に適応するのが遅れた。

企業と政府の関係が企業戦略と業務に影響を与えるようになった。

・多角化のペースが加速

→企業によっては1890年に多角化を開始、第二次世界大戦後に著しく増加。

多角化は関連市場や流通経路における新たな機会から生まれた

・フィリップ・モリス、クエーカー・オーツ:企業ドメインを超えた広範囲の製品を流通。

・ユナイテッド・テクノロジーズ、3M:ジェットエンジン等の基盤技術から一連の関連事業部門に応用

・ITT、テクストロン:互いに無関係の事業でポートフォリオを構成。

・コングロマリットの経営陣

→持ち株会社として企業を運営、戦略的・戦術的な決定は事業単位に委任。

この傾向は1970年代に弱まり、中核の事業に集中し事業部門のつながりを強めた。

・企業の内部構造・垂直的生産チェーンの見直し。

→殆どの多角化された企業は事業部制を採用していたが、関連の弱い事業に多角化するとともに経営陣の役割は変化。

高度に多角化されたコングロマリットは階層構造を取り払い本部スタッフを削減。

・ダウ・コーニング、アモコ、シティバンク:

従来の複数事業部構造では、異なる顧客層・市場分野にまたがる複雑な生産プロセス調整は困難。マトリックス構造(2つ以上の階層組織を一部重ね並用してスタッフを調整)を採用した。

・ベネトン、ナイキ、ハーレー・ダヴィッドソン:

ブランドイメージを本社管理する単純な組織階層。生産、流通、小売り等重要な機能は外部の専門企業に委託。

・マネージャーの仕事の変化

→市場取引に移行しない管理業務は自動化が進み、マネージャーは高度に技術的・専門的・調整的な仕事やより広範な一般管理に注力するようになった。

競争が激しくなり、素早いアイディアの活用などが重点に置かれた。特定の事業部門を中心とした縦の命令系統での階層構造から、企業内外の機能分野を横断する役割を必要とするようになった。

結果として組織権力の所在、キャリアパス、業績評価の方法にも変化が迫られた。

 

  • 事例「事業環境への対応:アメリカにおける捕鯨のケース」

・捕鯨事業の変遷

→初期:多数の比較的小規模事業者の激しい競争。大企業のコスト優位は殆ど無し。

イノベーション:捕鯨砲や効果的な銛で生産性は改善。しかし基本的な方法は変わらず。蒸気機関の影響も限定的で生産性の改善は小幅に止まる。

・代替製品との競争激化、需要の増大

→鯨油と石炭、灯油等との競争が激化したが、潤滑油としての需要増大が競争増加を相殺。鯨油価格は2倍になり、業界全体の産出量は10倍に。

・捕鯨リスクの増大

→急速な需要増大を対応する為、新しい漁場への長期航海、大型船の使用開始。しかし難破・沈没のリスクが10%に。大型船は補給が困難。捕鯨の地理的中心地を移し合理化を図った。

・捕鯨産業の消滅

→これらの変化は熟練労働者の望まない変化であり、労働者の質が低下。生産性も低下し、1870年以降に衰退、1914年に消滅した。

 

○今日のインフラ

・通信インフラの整備による世界規模での活動

→グローバルな活動調整を保証する通信・輸送・コンピュータ技術が独立していた地域市場の相互依存を加速、インフラの不備に対するコストが拡大。

企業はより広い地域から多くの情報を考慮する必要に迫られた。

 

○輸送

・自動車と飛行機の台頭

→自動車と飛行機による移動は輸送インフラを劇的に変化。高速道路によって自動車は爆発的に増加、トラック輸送は鉄道の強力な競争相手になり、航空輸送はビジネスのありかたを変えた。

→さらに航空・鉄道・陸上輸送は組み合わせて利用されるようになった。同時に都市や起業が鉄道や水路の近くにある必要性を低下させた。

アトランタ:鉄道・水路の接続は貧弱だが、空港の繁栄とともに成長した。

 

○通信

・遠隔通信技術がグローバル市場を生み出した。

→長距離の情報送受信が可能になり、多岐にわたる製品・サービスのグローバル市場が出現。個人の業務能力と企業の労働者管理能力を徹底的に変化させた。

・新たな経済インフラの方向性

→通信とコンピュータの進歩は従来の統合型企業を時代遅れにさせた。遠隔通信およびコンピュータ技術の基礎的な開発が20世紀後半の経済インフラの方向性を定めた。

 

○金融

・安定した金融サービスが結実

→1929年の金融市場の破たんは世界不況につながった。その後、商業銀行と投資銀行の分離が進み、中央銀行の役割が強化、証券市場ルールが厳格化され、近代的金融インフラが創設。企業が資金を株式と負債による調達で供給する機能が結実した。

・金融サービスの規制緩和

→1970年代1980年代の金融サービスの規制緩和は金融の役割を変化させた。いわゆるジャンク債によって大きな資金調達が可能となり合併・買収の数と1件あたりの金額が増加、大規模な合併・買収が注目された。

・クライスラーとダイムラー・ベンツの合併

・ソニーのコロンビアスタジオの買収

・ドイツ出版社ベルテルスマンのランダムハウスとバンタム・ダブルデイ・ベル買収

・財務会計の発展

→もともと複数の事業部門からなる企業が複雑さを増す業務に対処する為に発展してきたが、合併・買収、事業再編成、敵対的買収などの会計手続を想像しながら発展した。

 

○生産技術

・イノベーションによる生産技術の洗練

→生産技術の変化は低コストで高品質な注文生産を可能にした。2000年代のマネージャーは新技術の採用に当たり事業を再編成するか、従来の組織を強化するか選択を迫られた。

 

○政府

・政府の役割は複雑化

→二度の世界大戦と世界恐慌の結果、政府の官僚主義と経済活動規制は大幅に増加。軍と公共事業に巨額を投じた。

→一方、いくつかの業界で規制緩和を行った(ベルシステムの分割、航空・トラック輸送・金融サービス)

→政府間協定はグローバル市場での企業競争に大きな影響を与えた。医療、職場の安全、差別及び環境に関する政府規制は1960年代、1970年代に一般的となった。

 

  • 事例「製鉄業の発展」

・水平および垂直統合の時代

→アメリカは大量の鉄鋼製品を幅広く生産、鉱石採掘から鉄鋼完成品の販売、マーケティングと流通に至るまで生産プロセスを管理

・1950年代、重い製品から軽い製品へ

→鉄道や船の建造に使用される「重い」製品から家電、自動車、コンピューター等の生産に使用される「軽い」製品への需要が拡大した。

それまでの鉄鋼メーカーの殆どが「軽い」製品の需要には応えきれなかった。外国メーカーがアメリカの市場へ食い込んできた。

・新技術の進歩による影響

→諸外国の新設の製鉄会社は新技術のいち早く採用、対照的にアメリカで既に確立された総合企業は旧技術に投資を行ってしまっており、新技術への移行に消極的だった。

規模の優位性は失われ、その重要性は減少した。

国内外の激しい競争に直面し、旧来のメーカーは効率化を強いられたが、いまだ利益を出していない。結果として政府の貿易規制に助けを求めている。

 

○新興市場のインフラ

・インフラの遅れは多くの新興市場の経済発展を阻害

→交通機関の質は国によってまちまち。開発途上国は他の種類のインフラも持ち合わせていない事が多い。限られた通信や恣意的な金融インフラがアジア経済の崩壊を促進した。

開発途上国の多くをダメにしたのは政府の腐敗、縁故主義、内戦を払しょくできない自国政府であった。

 

○要約

・大企業から小さな時代へ

→20世紀前半は階層型の大企業の時代だったが、ここ30年の変化により、小さく階層の少ない組織が好ましい構造となった。マネージャーの役割も変化させ、その傾向は続くであろう。

・新たな機会と制約

→グローバル市場の成長は販売力を増加させたが、激しい国際競争を生み出した。

企業が以前は手にできなかった莫大な経営資源を手にできるようになった。

小規模なメーカーも大企業と同等かそれ以上の条件で競争できるようになった。

経営の階層を減らしてマネージャーの仕事をより複雑にしている。

 

  • 事例「タイ経済の迷走と交通渋滞」

・タイの経済成長

→政府が投資・輸出を自由化し、無干渉主義を促進した後、タイの経済成長は始まった。多くの投資家がタイの成長を予測し、現実となった。1975年から95年の間、タイ経済は年率8%で成長した。

・経済の衰退

→発達したインフラと複雑な取引のできるマネージャーを欠いていた。投資信用貸しは枯渇し、何千もの労働者が解雇された。1997年政府は競争力維持の為、バーツを切り下げた。

・インフラと規制の欠如

→交通政策・道路計画が機能していなかった為、渋滞が酷く非効率極まりなかった。バンコクで事業を続けたく主たる理由となった。無計画な開発によってモンスーンによる洪水に悩まされた。

排気規制も行われなかった為、大気汚染が広がった。タイのバブル経済は崩壊した。

 

④3つの異なる世界:一貫した原則と変化する条件と適応戦略

・戦略とは

→企業の置かれた環境に原則に基づきつつ適応する事である。状況は絶えず変化するのでどんな事業戦略も永続しない。

・原則とは

→戦略と原則とは異なる。原則は幅広い状況に当てはまる経済上、行動上の関係である。原則は確固としたもので、何故ある条件に適していて他の条件に適さないのか理解できるようになる。

・自製・購買の決定原則

→企業が十分に大きなスループットを達成できる場合のみ、設備と器具への大きな先行投資を伴う生産技術は、小さな先行投資を伴う技術に対してコスト優位を持つ。

・この原則は3つの異なる世界でも通用する

1840年:適さない。大量生産の為の効率的な技術、インフラが未発達。

1910年:適する。

今日:適さない。効率化された取引は独立した専門企業に委託される。

 

  • 事例「インフラと新興市場:ロシアの民営化計画」

・ゴルバチョフ以前のソ連のシステム

→企業財産は3人(政治家・経営者・人民)の所有であった。共産党による完全管理の為、人民は利益を得ることができなかった。効率的な決定へのインセンティブがなく、人民に非効率によるコスト負担を強いた。

・ゴルバチョフの改革

→民営化を促進したが、キャッシュフロー権と管理権を切り離したため、政治家の着服を妨げていた制約が取り除かれ背任と贈収賄が増加した。

・エリツィンの民営化政策

→3部の民営化政策

・政治家と管理者から管理権を剥奪

・管理権を株主に移管、株主の企業管理を可能にした

・民営化された企業のキャッシュフロー権を市民に直接分配(証券として取引)

政治的干渉を最小限にするため素早く大規模に実施。しかし政治的干渉と汚職は回避できず。最終的な結果は不明だが、擁護者はハンガリーや中国の自由化政策よりも優れていると主張。

 

第2章 企業の水平境界:規模の経済と範囲の経済

企業の水平境界:提供するサービスの量や種類、企業ごとに大きく異なる。

→規模と範囲の経済が決定的な影響を与える。

・企業規模・水平境界・市場構造・事業戦略の重要な判断

1 規模の経済と範囲の経済の定義

・規模の経済の定義

規模の経済:生産量が増えるにつれ平均費用が下がる時に存在(逆:規模の不経済)

・範囲の経済の定義

範囲の経済:商品やサービスの種類が増えるにつれ費用が節約できる時に存在

2 規模の経済の発生要因

規模と範囲の経済の4つの発生要因

①固定費の非分割性と拡散②変動投入物の生産性の向上(主に専門化による影響)③在庫

④二乗三乗の法則

・固定費の非分割性と拡散

非分割性:生産規模が非常に小さい場合でもある一定量以下に投入資源を減少させられないこと。

・在庫:企業は品切れの発生確率を最小化しようとする為に在庫を抱える。

・二乗三乗の法則と生産プロセスの物理的特性:容器の容量の増加ほど表面積は増加しない法則。

3 規模の範囲の経済の特殊な発生要因  特殊な発生要因:購買、宣伝、研究開発

・購買における規模と範囲の経済:一括購入による便益

・宣伝における規模と範囲の経済:顧客当たり宣伝費用がより低く、伝達範囲が高くなる

・研究開発における規模と範囲の経済:非分割性が高く一定の規模が必要。範囲の経済は、あるプロジェクトから生まれたアイディアを他プロジェクトに役立てる波及効果から発生。

4 規模の不経済の発生要因

規模の経済には限界がある。ある規模以上は大きいことが良い事ばかりでないと企業が把握している。

・労務費と企業規模:大企業は小企業と比較して割高な賃金を払っている。

・インセンティブと官僚主義の影響:企業が垂直境界を越えて拡大する際に障害となる。

・専門能力を分散させる影響:専門家が成功をもたらすカギが、1つの活動に対して長時間携わる事である場合、複数の活動に時間を使うとすべての活動において成果を上げられない可能性がある。

・利益相反の影響:規模が大きくなると競合他社における利益の相反が懸念される。

5 学習曲線:経験が重要であり、学習曲線の概念によって示すことができる。

・学習曲線の概念:経験やノウハウの累積によって得られるコスト優位である。

・生産拡大によるコスト優位の獲得:短期的に最適な生産量以上に生産することで学習の効果を高める戦略。学習によって将来のコスト削減が期待でき、実質的に限界費用を下げる効果がある。

・学習と組織:学習は個人に蓄積される。企業は学習した知識を活用する為に情報共有を奨励したり、作業手順を作ったりする。しかし、一方で創造性を阻害する要因にもなる。

・学習曲線と規模の経済:学習の経済は規模の経済と異なる。規模の経済はある時点で、より大きな規模で作業を行ったほうが単位コスト削減につながるが、学習の経済は、累積する経験によって単位コストが削減できる。

6 規模と範囲の経済、企業規模、収益性

・規模、範囲、企業規模:規模と範囲の経済は大企業にコスト優位を与える。小企業は倒産するか大企業が扱っていないニッチへと追い込まれる。

・市場シェアと収益性の関係:市場シェアと収益性には正の関係がある。しかしシェアの増加が必ず利益に結び付くという因果関係は存在しない。

 

第3章 企業の垂直境界

垂直チェーン:原料調達、流通、販売の一連のプロセス

垂直統合企業:垂直チェーンの多くを自社で遂行する企業

企業の垂直境界:どの業務を自社内で行い、どの業務を外部から買うかを定義する事。

1 自製・購買の決定

・上流と下流:生産プロセスにおいて垂直チェーンの前の段階が上流、後ろが下流。

垂直チェーンとは別枠の支援サービス:会計、財務、人事、企業戦略、マーケティング等

→外部の専門家「市場の専門企業」に委託「外部市場を使う」

・境界の決定

市場の専門企業を使う場合の主要な便益とコスト

便益:複数から委託されることからの規模の経済の達成。事情競争にさらされており、効率的かつ革新的

コスト:垂直チェーンに沿った生産の調整が犠牲になる恐れ。機密情報の漏洩。取引費用の増大

・自製、購買の決定にまつわる誤り(正しくない3つの議論)

①外注により費用を省き利益を増やすことができる。

②上流の工程を統合し、サプライヤーの利益を自分のものにしなければならない。

③垂直統合によって材料を原価で入手することができ、材料高騰リスクを避けられる。

2「購買」の理由

・外部市場を利用することによる有形の便益:規模の経済と学習の経済

・外部市場を利用することによる無形の便益:エージェンシー効果とインフルエンス効果

3 外部市場を使うコスト

①垂直チェーン段階間の調整不備コスト②取引相手と情報を共有しないコスト③取引費用

・垂直チェーンに沿った生産の調整:規模の経済を活用する為に重要

・機密情報の漏洩:機密情報は企業の優位性に資する。外部市場を使うと漏洩リスクが上がる。契約を漏洩防止手段として使うが場合によっては守りきれない。

・取引費用:外部市場を使うとかかる費用。交渉や契約作成と実行に係る時間と費用が含まれる。

4 技術変革と企業の境界の進化

・企業の境界は企業を取り巻くインフラによって決定づけられる。

・垂直チェーンにおける企業境界の縮小は1990年代初頭の景気後退時に加速。1980年代にコンピューターや通信が普及し、大規模生産の優位性が後退、垂直チェーンのなかで少数の業務しか行わない中小企業が大企業に対する競争力をつけた。

・新しい技術、イノベーションは自製の利点を減らしてきた。メーカーの雇用は減ったが、垂直チェーンのなかで業務を特化した企業の雇用は増加している。

 

第4章 市場での取引費用

1契約と市場取引

大きな取引費用がかかる例・アルミニウム・ラスベガスのカジノ・ISとIBMの対立

→効率的な取引関係を保証する十分な契約が無かった。

・契約の経済的意味

→契約とは…取引の条件を取り決めたもの。私有財産の経済の今回をなす要素。

取引を当事者の機会主義的行動から守り、より経済的にする。

・完備契約と不完備契約

完備契約…機会主義的な行動を一層。取引を通してすべての起こりうる現象を予測して、当事者の権利と義務をすべて取り決める。

不完備契約…起こりうる現象の権利、義務、行動を規定しない契約。実在する契約の全て。

→完備契約が結べない3要因

・合理性の限界・行為を特定し測定する困難さ・情報の非対称性

・契約法の役割

不完備契約でも取引を円滑にする。アメリカでは「コモン・ロー」「UCC」にて具現化。

2関係特殊資産を伴う取引

・関係特殊資産:特定の取引ために投資した資産。

アルミナの製錬所→特定のボーキサイト鉱石に合わせた精製所の建設。

ニューヨークの犯罪組織→ラスベガス開発の為のバグジー・シーゲルの雇用。

ISとIBMの生産設備→相互依存関係。

・基本原理の変質

関係特殊資産に投資すると取引関係は競争原理ではなく、少数の交渉によって決まる。

・レントと準レント

レント:計画通りに行った場合に得ると期待している利益

準レント:計画通りにいかず次善策に移行した場合に発生するレントとの差額

・ホールドアップ問題:契約破棄による問題やコスト、損失。

・ホールドアップ問題と取引費用

以下4作用によりアームズ・レングス取引(正式合意無しに将来も取引が続く取引)の費用が増加。

1、交渉をより困難にし、より頻繁に契約の再交渉が行われる。

2、契約後の交渉力を強めるための投資を行う。

3、取引相手に対する不信感。

4、関係特殊資産への投資を減らす。

3取引費用と垂直統合

ホールドアップ問題による取引費用の増大を回避する為に垂直統合が考えられる。

・統治の違い:垂直統合のもとでは、当事者にはアームズ・レングス取引における契約よりもより強い統治のメカニズムが働く

・繰り返される関係:垂直統合のもとでは、取引当事者の関係は繰り返される。

・組織の影響:各当事者を同じ組織内に置くことで、垂直統合は機会主義的な行動を制限する。

 

第5章 垂直境界の編成:垂直統合と代替手段

1 技術効率とエージェンシー効率

  • エコノマイジング

・市場取引によるコストと便益は、技術効率とエージェンシー効率に係わるものに二分できる

→技術効率(生産プロセス):(狭義)一定の資源の組み合わせから最大限生産できる水準。

(広義)最も低コストの生産プロセスを採用しているかどうか。

→エージェンシー効率(取引プロセス)

:垂直チェーンのなかで製品とサービスの取引が組織されている水準。

・生産プロセスの適切な垂直構成の為に技術効率とエージェンシー効率の均衡を図ることをエコノマイジングと呼ぶ。

  • 技術効率・エージェンシー効率のトレードオフと垂直統合

垂直統合の促進要因に関しては3点の有力な結論が上げられる。

①規模と範囲の経済:多大な初期費用が必要とされ、外部に大きな市場が存在すれば購買が有利。

②製品市場の規模と成長性:シェアが大きい企業や、複数の生産ラインを持つ企業がまとまった市場で活動する場合に垂直統合から利益を得やすい。

③資産の特殊性:関係特殊資産への投資を要する場合。

  • さまざまな業界での垂直統合例

・自動車業界:GMとフォード。同レベルの特殊性がある資産についてはGMが垂直統合が進んでいる。

・航空宇宙業界:特殊性の高い部品ほど生産の垂直統合が進んでいる。

・電力業界:炭鉱口の発電所は垂直統合が進んでいる。垂直統合されていない発電所はホールドアップ予防策を講じている

・電子部品業界:販売業務に要する資産特殊性が高いほど自社営業部への依存が強い。資産特殊性が同じでも大企業は小企業に比べて自社営業部への依存が強い。

2 垂直統合と資産の所有権

・垂直統合と購買を比較する理論には資産所有とコントールの重要性に着目するものがある。資産管理の三つの選択肢(非統合・前方統合・後方統合)が考えられ、関係特殊資産への投資インセンティブが変わってくる。

3 垂直合併におけるプロセスの問題

・垂直チェーンのなかで合併することは、自製・購買の決定をする、というよりも自製する機会を「買う」ということになる。それが生産的なものになるかどうかは企業統治次第である。

・企業活動の決定権はその活動の成果に対して最も影響力のある幹部に委ねるべき。これは企業の収益率にも影響を及ぼす。

・経路依存性(過去の事情により統治形式が狭まること)は社外の下流需要者に製品を販売する能力を左右するので企業の垂直関係に影響を与える。

4 垂直統合の代替手段

  • 部分的統合

垂直統合と市場取引を組み合わせた形態。次の三つの利点がある。自製と購買のそれぞれを利点を併せ持つことが可能であるが、両者の欠点を露呈するおそれもある。

①多大な資本投入をせずに企業の購入経路や販売経路を拡大できる。成長期の企業にって有用

②自社の生産費用や収益率の情報が外部との契約交渉の際、予備知識となる。

③社内に部品供給能力を持たせることにより外部部品サプライヤーのホールドアップから身を守れる。

  • 戦略的提携とジョイント・ベンチャー

・提携やジョイント・ベンチャーは、アームズ・レングス取引と完全な垂直統合の中間に位置づけられる。提携の主体は相互関係を統治するにあたり、契約より信頼や互恵主義といった規範を重視し、論争解決にあたっては訴訟ではなく、話し合いを用いる。提携が最も自然に当てはまる取引には以下の特徴がほぼ全てみられる。

①包括的な契約を困難にする要件があり、明文化できない。

②取引が定型的でなく複雑。

③双方が関係特殊資産をつくる必要性があり、お互いにホールドアップの危険性にさらされる。

④一社で必要な専門技術を全て独自に開発すると非常にコスト高になる。

⑤取引の存続が不確実。合併したり長期契約を結ぶことが現実的でない。

⑥取引が特殊な契約や規制下にあり、地元のパートナーを必要とする。

  • 協調的な関係:日本型下請構造と系列

日本は欧米に比べて垂直統合企業が少ない、比較的小規模企業が多く、それぞれが垂直チェーンのなかで一定の役割に特化している。

・下請け企業との連携:日本のメーカーの多くは独立した下請企業と長期にわたって緊密な関係性を保ち、それら業者のネットワークを多用している。イギリスの電子産業メーカーと比較すればイギリスは何回かの定められた契約で終わるが、日本は何十年にも及ぶことがある。仕事内容もイギリスと比べより高度で包括的である。

・系列:下請け構造と似ているが、より正式に制度化されたもの。系列に属す企業は個人的な人脈でも結びついている。調整問題の多くを解決し、ホールドアップの懸念も緩和される。

  • 暗黙の契約と長期的な関係

暗黙の契約とは取引関係にある当事者間の相互理解であり、明文化されていない。系列会社同士の相互理解は暗黙の契約であり、法廷では効力が認められない。自社の利益の為に暗黙の契約を破ると将来の取引を失うといった脅威が、暗黙の契約を有効する強力なメカニズムである。この契約の切り替えのハードルが高い事が長期的な関係を生みだす。

 

第6章 多角化

1 多角化の程度

  • 歴史的背景

・20世紀のアメリカでは5つの合併の波が見られた。

①1883年世界不況の後:アメリカ全製造業の1/6が合併。1900年代初頭まで続いた。

②1920年代初頭:比較的小規模。産業構造は独占より寡占、水平統合ではなく垂直統合が多かった。

③1960年代~:これまでと異なり多角化へ。巨大コングロマリットが出現。

④1980年代~:低迷する株式市場で企業を「バーゲン価格」で買収。

⑤1990年半ば:1997年には史上最高の合併件数。

  • 「関連性」の移り変わり

・関連性:複合企業において規模の経済がどの程度存在するか示す手段。企業を4つに分類。

①単一事業型:95%以上が1つの事業活動から成り立っている(デビアス、KLM)

②主要事業集中型:70~95%(3M、ニューヨーク・タイムズ)

③関連事業型:70%未満だがその他の事業が主要事業と関連する(フィリップ・モリス、ネスレ)

④無関連事業型:70%未満で関連が殆どないコングロマリット(イギリスのハンソン、アメリカのITT)

・1949年、70%が①と②に集中していたが1969年には35%に低下。対照的に④は1949年3.4%から1969年に19.4%へ上昇。

2 多角化の合理性

  • 規模と範囲の経済:多角化の一つの動機は規模と範囲の経済を追求すること。

・経営資源戦略論(エディス・ペンローズ)

範囲の経済は企業内の使われていない経営・組織的資源を新分野で活かすことで生まれる。

・支配的経営論理(C.K.プラハッド、リチャード・ベティス)

多角化企業は限られた経営資源を、名目上関係のない事業に振り分ける事がある。ただし明白な事業間の関連性が無ければ範囲の経済が生み出されるという主張は擁護できない、とする。この考え方を踏まえ、多角化する理由は範囲の経済の他に3つの理由(財務面シナジー・取引費用低減・経営者自身の都合)がしばしば提示される。

  • 財務面のシナジー

・企業の長期的成功の為には十分かつ安定したキャッシュフローが必要であり、事業ポートフォリオを持つ必要がある。

・ターゲット企業:買収の相手先として精査を行う相手。過大評価する事がある(勝者の呪い)

・財務面のシナジーがありそうでも十分な買収理由にならない事がある。

  • 取引費用の低減

・取引費用の為に独立した企業を調整する事が難しい場合には、多数の製品を扱う一つの企業にする校が効率的である(ディビッド・ティース)

・多角化するか独立企業として操業するかという意志決定は、多くの場合取引費用を最小限にするという論理で行われる。

  • インフルエンス費用とインセンティブ効果

・垂直統合企業の問題の一つ「インフルエンス費用」は多角化企業にも悪影響を与える。経営資源の配分等の意思決定が内部ロビー活動に影響されると、資源配分は非効率になる可能性が高まる。

・多角化企業の経営陣は、各事業部門の業績に基づいて報酬を与え、目標と昇進を連動させてマネージャーを動機付けさせる(インセンティブを与える)必要がある。

  • 経営者の都合による多角化

・効率性や株主利益の為ではなく、経営者自身の保身を目的とする多角化がある。

→例:敵対的買収に友好的買収で対抗する場合。株主にとってはマイナスになる事がある。

・成長性の追求。内部事業を育てるより他社を買収するほうがたやすく成長できる場合よる多角化。

・経営者と株主双方に目的にかなう多角化

例→業績連動型給与制度の下では、関連性の無い多角化は社員へのインセンティブコストを減らす。

→多角化は社員のやる気を起こさせる昇給の代わりになる。部門移動の機会を与える。

・経営者が株主の犠牲によって保身を図るのであれば、株主はより厳しい監視をすることで利益を得る機会が生まれる。利益の機会があれば、それを利用しようとする者がいるというのが経済原則である。

  • 企業支配権の市場

・MCC理論(ヘンリー・マン):「企業買収=乗っ取り」は非効率な経営陣を株主利益の為に入れ替える合理的行為だとする。買収の脅威は経営者の勝手な行動を抑制、解体型の敵対的買収を説明した。

ただし、実質的な企業行動(経営陣交代率・企業評価)を細かく見るとMCC理論が裏付けられない場合がある。

  • 多角化、富の再分配、長期的効率

・MCC理論は敵対的買収によって誰が得をし、損をするのかを明らかにしていない。これは富の創造ではなく、再配分にすぎない。そして長期的な経済効率の問題につながる。短期的には合理性があるが、長期的には逆効果になる場合がある(アンドレイ・シュライファー、ローレンス・サマーズ)

問題例→・長期的雇用によって熟練した従業員の喪失

・自治体が企業の為に整備されたインフラコスト

・シュライファーとサマーズへの二つの疑問

→利害関係者から準レントを搾取する為に企業を買収する必要は無い。

→この議論は検証が困難でどれだけの意味を持つのか不明瞭。

3 多角化企業の業績を示す証拠

  • 会計情報を用いた多角化企業の業績の研究

・会計情報を用いた研究では多角化と業績の関係は不明瞭。

→リチャード・メルメト、ダニエル・ナサンソン、ノエル・カポン、コンスタンチノス・マルキデス等

  • 多角化企業の株価の研究

・マイケル・ジェンセン、リチャード・ラバックの研究

→ターゲット企業と親会社を合わせた時価総額は、合併発表後に上がる傾向があるので合併は効率を高めたと言える。

→多くのターゲット企業の株主は異常なリターンを得ている(平均30%もの高さ)

→買収側の株主はわずかの統計的に有意でないリターンしか得ていない(4%以下)

・M&Aは買収する側に価値を生み出す可能性がある。その価値はシナジー、非効率な経営者の追い出し富の再配分などである。しかし、複数の企業がターゲット企業の支配権価格をせり上げる事でその利益は霧散してしまう。

  • 多角化企業の長期的業績

・多角化の結果を正しく評価するには、一般的に研究されている期間よりも長期間が必要である。

・長い期間で見たほうが多角化企業の業績は悪い。

・多角化は価値を創造しうるが、業界全体の事情やその他の要因の為、多角化自体の貢献は明確でない。

→妥当な多角化は、範囲の経済と取引費用の条件に何らかの基礎を置き、それらが1つの企業内において多様な事業を行う事を、ジョイント・ベンチャー、契約、提携、他の統治方式に比べ効率的にしている。

 

第7章 競争相手と競争

1 競争相手の特定と市場の定義

  • 代替品を特定することで競争相手を特定する。

お互いの製品がどの程度代替の関係にあるかは需要の交差価格弾力性によって測定する事ができる。

nyx=(∂Qy/Qy)/(∂Px/Px)

・直接的な競争相手:一方の戦略決定が他方の業績に影響を与える。製品同士の需要の交差価格弾力性が比較的大きい場合。

・間接的な競争相手:一方の戦略が他方に影響を与えるものの、第三者の戦略決定を通して反映される。

・強い代替関係にある3条件

①同じまたは同様の製品特性。②同じまたは同様の用途。③同じ地理的市場で販売。

・定性的分析には欠点がある。改良する手法として標準産業分類(アメリカ・SIC)による特定が良く用いられる。

  • 市場の定義

市場の定義は企業が競争する市場を特定する事であり、反トラスト経済学の要。需要の自己価格弾力性に密接に関係している。nx=-(ΔQx/Qx)/(∂Px/Px)

  • 地理的競争相手の明確化

異なる地域で販売され製品輸送もしくは消費者の移動にかかるコストが非常に高いなら同一製品であっても代替品にならない。

・地理的競争相手を特定する2つの条件(ケネス・エルジンガ、トマス・ホガティ)

①その地理的市場にある企業のほとんどの顧客はその地域から来ている。②その地域に住む顧客は殆どの買い物をその市場の売り手から行う。

2 市場構造の測定

市場構造:一つの市場に存在する企業の数と分布。測定方法として「上位N社の市場集中率:市場にある上位N社の市場集中率の総計」「ハーフィンダール指数:市場にある全企業の市場シェアの2乗の合計」が多用される。ハーフィンダール指数が上位N社の市場集中率より多くの情報や意味がある。

3 市場構造と競争

  • 完全競争

同質な製品を持つ多くの売り手が存在し、十分な情報を持った多くの消費者が、もっともよい価格を求めて費用をかけずに売り手を選ぶことができる状態。企業は無限の弾力的な需要に直面し、決定するのは生産販売の数量だけとなる。同一価格設定することになり、価格は限界費用まで引き下げられる。

・次のうち二つ以上の条件が満たされるならば価格は引き下げられる傾向にある。

①多くの売り手が存在。②消費者が製品は同質であると認識。③過剰設備が存在。

  • 独占:販売市場に競争相手が殆ど、もしくは全くない場合、企業は「独占企業」である。「独占力」とは価格や品質の引き下げを「制約なく行えること」である。

・買い手独占企業:購買市場で競争相手が殆ど、もしくは全くない場合。

・マイクロソフトの反論:独占企業の利益を抑える事は、長期的にはイノベーションの目を摘み取る。

  • 独占的競争:次の二つの特性がある市場を特徴づける。

①多くの売り手が存在し、一つの競合に対抗する為だけに自社の価格を変更しない。

②売り手は差別化された製品を売っている。差別化された売り手が価格を上げてもすべての顧客を失う訳ではない。

・垂直的差別化:ある製品が競合製品よりもはっきりわかる優劣を持つ場合。

・水平的差別化:価格が一定として、消費者が競合製品よりもある製品を選好する場合。

・独占的競争市場への参入

最適価格の理論では企業は限界費用を上回る価格を設定する。価格が平均費用を十分に超えれば企業は正の経済利益を獲得する。経済利益は投資家や企業家を引き付け市場参入を呼ぶ。参入は価格を引き下げ、シェアを減少させ、経済利益がゼロになるまで続く。

  • 寡占:一企業の行為が実質的に業界全体の価格水準に影響する市場。主な二つのモデルがある。

・クールノーの数量競争(オーグスチン・クールノー、1835年)

2つの企業しかない市場を想定する。両者とも相手の生産量を予測し、競争相手がその生産量を維持すると信じる。それぞれの最適生産量は、競争相手が選択すると予想する量の最適反応となる。

・ベルトランの価格競争(ジョセフ・ベルトラン、1883年)

各企業は価格を選択し、製品に発生する需要をすべて満たす市場を想定する。企業は他社の価格を予測し、自己利益を最大化する価格を選択する。その企業は競合他社の価格設定には影響を与えないと信じる。各企業はライバル企業の価格は固定していると考える。

・クールノー・モデルとベルトラン・モデルの違い

二つのモデルを論理的に一致させる方法は、二つの競争は異なる時間枠の中で発生すると認識すること。違いを理解する方法は、各企業が競争相手の反応を予測する事について異なる前提を持つと理解する事。

・製品が水平的に差別化されている時のベルトランの価格競争

製品が水平的に差別化されている場合、企業は価格を安く設定した競争相手に事業の全てを奪われることは無い。独占的競争の理論にあるように、競争相手の価格が下がった時、企業の需要は非連続的に減少するのではなく、むしろ「徐々に」減少する。製品が完全な代替品である場合よりも、競争相手の事業を奪うための値下げの効果が薄いため。

4 市場構造と業績の関係

  • 価格と集中度

経済理論では価格―費用マージンは、より集中が進んだ市場で高くなるはずである。しかし価格―費用マージンは会計慣行、規制、製品の差別化、取引慣行、買い手の集中などの要因の為、市場によって変化しうる。これらの理由で価格と集中度の研究は特定の業界(ガソリンスタンド等)に集中している。

  • 収益性の要因に関するその他の研究

どの国でも一貫して明らかなのは同じ業界は集中度が高くなる傾向がある。規模の経済など基本的な要素が、どこの国でも市場構造を決定する事を示す。規模の経済の大きさを測定しようとした研究の中でもこの結論は一貫したものである。

 

第10章 参入と撤退

1 参入と撤退に関する事実

参入は多くの業界で多くの形態をとりうる。参入企業はその市場に参入するまで存在しなかった企業であることもある。既に存在するが市場にいなかった企業であることもある。撤退は参入の反対である。市場から製品を引き上げる事だが、企業を完全に閉鎖する場合もあれば他の市場に移る場合もある。

  • ダン、ロバーツ、サミュエルソン(DRS)による参入と撤退の研究

①参入と撤退はとどまるところを知らない

②参入・撤退企業は確立された企業よりも小さい事が多い。

③ほとんどの参入企業は10年間も生き残ることができないが、生き残った企業は急激に成長する。

④参入・撤退率は業界によって異なる。

・DRSの発見による4つの重要な示唆

①将来計画には未知の競争相手を考慮する。②多角化企業は既存企業の脅威となりうる。③新規企業は早期に失敗すると予測すべき。しかし生存すれば成長するので拡大戦略をとる資金を見つける必要がある。④業界の参入と撤退の条件を熟知する必要がある。

2 参入と撤退の意思決定:基本概念

利益を最大化しようとするリスク中立的な企業は、参入による埋没費用が参入後に期待される利益の正味現在価値よりも小さい場合は参入すべき。

  • 参入障壁

・ベインによる参入状態の分類

参入障壁とは既存企業がプラスの利益を生み出すことができ、参入しようとする企業にマイナスの利益をもたらす要因である。構造的なものと戦略的なものがある。

・ベインの参入3条件:①参入閉鎖。②参入許容。③参入阻止。

・構造的参入障壁の主なタイプ

①重要な資源の配分:生産に不可欠な資源を支配している場合。

②規模と経済の範囲:最少効率規模を超えて操業する既存企業は、小規模参入企業よりコスト優位大

③既存企業のマーケティングの優位性:既存企業のこれまでの製品に満足している消費者はその企業の新製品も満足のいくものであろうと信じる。

  • 撤退障壁

・労働協約や原材料を購入する契約・資産転売価値の低さ・政府の規制

3 参入阻止戦略

以下二つの条件が満たされる場合にのみ成功する。

①既存企業が独占企業としてあげる利益の方が、二社複占時の利益より高い事。

②阻止戦略により、参入後の競争状態についての参入企業の予測が変化する事。

4 撤退促進戦略

企業は時々自分を市場から追い出そうとして競争相手が価格を下落させていると主張する。価格を下げている企業は、独占的影響力を持つ至ると価格を上げて、値下げによる損失以上のものを取り戻そうとするので消費者はその様な低価格に対して反対すべきと主張する。→不当廉価販売として訴える。

  • 消耗戦:価格競争。すべての企業が長引く価格競争によって損失を被る。

5 参入阻止行動の実際

企業が参入阻止戦略を追求しているかどうか、その様な戦略を採っている場合で成功しているかどうかに関して体系的な証拠は殆んどない。証拠がないのはいくつかの理由がある。

①企業は参入を阻止していると報告するのに消極的。

②多くの参入阻止戦略は短期的な独占価格を下回る価格設定を含んでいる。

  • 参入阻止に関する調査データ

ロバート・スマイリー調査。大手製品メーカー300社のマネジャーに以下の戦略を取ったか質問。

・後発参入企業が追い付けない積極的な価格の引き下げ

・ブランドロイヤルティを生むための集中的な広告

・製品のあらゆる可能性に対して特許取得

・公式発表等にて市場奪取に関する企業の評判を高める

・参入阻止価格

・余剰生産力の保持

半数以上が1つ以上の参入阻止戦略の頻繁な使用、殆ど全てがたまに使用したとの報告。

 

第11章 業界分析

1 5つの競争要因分析

5つの競争要因は、①市場内競争②参入③代替品と補完品④売り手の力⑤買い手の力、からなる。

これらが1つのまとまった原理ではない事を意識する。分析を行う際には、各要因に関連する経済原則に立ち戻るべき。

  • 市場内競争

市場内競争は同業者がシェアを巡って立ち回ることであり、競争を行っている市場を定義する事から始まる。お互いの戦略的意思決定に影響を与えるすべての企業を分析に組み入れる必要がある。

以下のような状況が価格競争を激化させる。

・市場内の過当競争・業界の停滞ないし衰退。・企業間のコスト差・余剰生産力・商品が差別化されていない/スイッチングコストが低い。・価格と販売条件が観察しにくい/価格はすぐに調整されない。・注文の規模が大きい/注文頻度が少ない。・業界に価格設定に関する習慣がない、あるいはこれまで協調価格をとっていない。・厳しい撤退障壁がある。

  • 参入

新規参入は二通りの方法で既存の市場参加者の利益を侵食する。

①供給が増える事により市場の需要が新規参入者によって奪われる

②市場の集中度が下がり、それによって売り手の競争が激化し、マージンが減少する。

以下の要因のそれぞれが参入の脅威に影響を与える。

・生産プロセスにかなりの規模の経済があり、新規参入者ははじめから大量生産に踏み切らざるを得ない。市場の規模に比較し、最少効率規模が大きい。・消費者が評判のよさを高く評価する/消費者がブランドを信奉している。・技術ノウハウ、原材料、流通、立地といった主要な投入物が、新規参入者にとって入手しやすいがどうか。・学習曲線。・ネットワーク外部性。・既存企業への政府による保護。参入後の競争の予測。

  • 代替品と補完品

代替品は新規参入者と同様のやり方で他社から利益を奪い、市場内競争を熾烈にする。補完品は、当該商品への需要を増やし、業界の利益を増やす役割を果たす。代替品と補完品について考えるべき要因は以下のようなものがある。

・緊密な代替品や補完品の入手可能性。・代替品や補完品の費用対価値。・業界レベルの需要価格弾力性。

  • 売り手の力と買い手の力

売り手の力の評価は、下流の業界の観点から、上流の原料の売り手が業界の利益を抜き取る価格交渉力を評価するものである。買い手の力は売り手の力と似ており、個別の顧客が売り手と購入価格を交渉し、私益を抜き取る能力を言う。以下は売り手の力と買い手の力を評価する際に考慮されるべき要因。

・業界及びその上流と下流の集中度。・下流の企業の購入規模。・代替品の有無。・業界と売り手による関係特殊投資。・売り手による前方統合の脅威。・売り手の価格差別。

  • 5つの競争要因に対処する為の戦略

5つの競争要因の分析は、その業界の企業が対処し、利益を脅かす要因を特定する。その為に企業はいくつかの戦略を探求する。

①自らを守るべくコストか製品差別化による優位性を確立して、競合他社をしのぐポジションに立とうとする。②5つの競争要因がそれほど激しくない業界を見分ける。③困難であるが、5つの競争要因自体を変えようと努力する。

 

2 コーペティションとバリューネット

「コーペティション経営」(アダム・ブランデンバーガー、バリー・ネイルバフ)ではポーターが一般的に無視している正の側面を重視。5つの競争要因分析の対抗概念として「バリューネット」というコンセプトを導き出した。正の相互作用として以下のようなものが上げられる。

・業界の発展を推進する技術的な基準を打ち立てようと努力する。・有利な規制や法令を設置するように競合他社が努力する。・最終製品の需要増の為、製品の品質を高めるべく企業とサプライヤーが協力する。・企業とサプライヤーが生産効率を高める為に協力する。・供給サイドと需要サイドが在庫の圧縮に協力する。

3 5つの競争要因による業界分析

  • 病院業界の昔といま

・市場の定義:市場を定義するには製品市場と物理的市場とを明確にする必要がある。病院サービスは「製品市場」として定義され、地域的に売買される。大概の病院では患者の殆どがその地域の住人である。

・市場内競争(低→高):シカゴの市場には70の地域病院が存在。80年代の市場競争は緩やかだったが、シカゴ一帯の保険会社が最も安価な医療サービスを提供する病院と個別に契約を結び始めた。選択的契約の為に価格競争は激化。多くの病院が閉鎖されたが、強いブランド・イメージを確立した病院は利益を出し、交渉力を高めていった。

・参入(低→中):規制と参入障壁が高く、80年代には新規参入の脅威は少なかった。現在は規制や障壁は低くなったものの、構造的な参入障壁が残り価格競争に直面することになる。80年代と参入の脅威は変わっていない。

・代替品と補完品(中→高):80年代において病院以外の入院サービスは殆ど無かった。しかしその後、外来診療や在宅医療が台頭し、外来診療は入院サービスの脅威となった。

・売り手の力(中):病院の主たる売り手は、労働力、医療器具メーカー、薬局などが含まれる。病院との売り手との間には関係特殊資産はほとんどなく、売り手の力は強い。

・買い手の力(低→高):患者、主治医、保険会社などが含まれる。彼らはどの病院が選ばれて、診療費がそのように支払われるか決定する。80年代には買い手の力は弱かったが、近年は強くなっている。

  • タバコ業界

・市場の定義:タバコには代替品と呼べるものが殆ど無い。

・市場内競争(低):歴史的に見てタバコ業界の価格競争は熾烈でなかった。現在の主要なメーカーはタバコ・トラストから派生しており、友好的な価格競争を可能にしている。しかし、現代では喫煙者の人口構造の変化等により市場内価格競争が激化している。

・参入(低):参入・撤退障壁が歴史的に高く新規参入は殆ど無い。

・代替品と補完品(低):代替品や補完品は非タバコ製品であり、脅威がない。

・買い手と売り手の力(低):売り手、買い手の力は弱い。

  • ハワイアン・コーヒー業界

・業界の事実関係:ハワイのプレミアム・コーヒー豆は、生育条件の理由で軽・中程度の風味と強さを有し、価格及び品質においては「中から上」の評価を得ている。

・市場の定義:コナ・コーヒーの大部分は観光やマーケティングによって、ハワイに最も親しみを感じているアメリカ本土で消費されている。

・市場内競争(低~中):歴史的に生産者間で価格競争は殆ど無い。しかし生産量の増加に伴い値下げの可能性があり、将来は厳しい価格競争も予想される。ただ、ハワイアン・コーヒーの消費者は価格に敏感ではなくブランドの信奉者である。市場拡大できるニッチは十分にあると考えてよい。

・参入(低):土地や水に関する構造的な障壁と、栽培、収穫および加工設備に固定的投資を要するといった障壁から、参入は非常に小規模なもの以外は想定されない。

・代替品及び補完品(中):代替品や補完品はパンやデザート、ハワイでの休暇などで直接の脅威は想定されない。

・売り手の力(低):独占的な地主の力が強い。農民の多くは土地を借りて栽培をしているため、定期的に賃料の交渉をしなければならない。近年は6倍の値上がりを見せている。

・買い手の力:(中)買い手は供給が需要に追い付かなくても、高品質のハワイアン・コーヒーが欲しいため、生産者と良好な関係を維持したいと考える。しかし大口需要家の求めに応じるだけの供給は難しい。

 

第12章 競争優位の戦略ポジショニング

1競争優位

  • 競争優位の定義

企業(あるいは多角化企業の一部)が同一市場の平均より高い経済利益率を得ている時、その企業は市場内において競争優位(competitive advantage)があるという。

  • 収益性に影響するのは業界か、あるいは企業か

業界効果とポジショニング効果の両方が収益性に影響する。事業部の収益性は同じ業界内でもあるいは業界間でも異なる。アニタ・マガーンとマイケル・ポーターの研究は企業間の利益の際の内18%が業界に起因し、32%が競争上のポジショニングに起因するとしている。

2競争優位と価値創出:分析ツールと概念的基礎

  • 知覚便益と消費者余剰

コストより高い価値=知覚便益といい、コストと価値の差を消費者余剰という。市場における企業間競争は、製品価格や製品特性を通じて、企業が消費者余剰を競り落とすプロセスと考える事ができる。

  • 創出価値

創出価値(value-created)は製品が持つ価値と、その製品をつくるために使われた価値の差。

創出価値=最終消費者の知覚便益-投入物の費用=B-C

  • 価値の創出とウィンーウィンの事業機会

価値を創出しない製品は市場で生き残れない。B>Cの場合、事業化は常に原材料の供給者と消費者のとの間でウィンーウィンの取引を行うことができる。

  • 価値創出と競争優位

企業が競争優位を獲得するには、すなわち市場において競合他社に勝つには、製品がプラスの経済利益を創出するだけでなく、競合他社を上回る価値を創出しなければならない。

  • 価値創出とバリューチェーン

価値創出は製品が垂直チェーンに沿って動くことでなされる。その為の垂直チェーンはしばしばバリューチェーン(value chain)と呼ばれる。バリューチェーンは企業を、生産、マーケティング、販売、物流などの価値創出活動の総体と見るものである。

  • 価値創出、経営資源、ケイパビリティ

企業が競合他社より優れた価値を創出する事は、各種活動の一部あるいは全部を、競合他社より効率的に行わなければならない。その為には競業他社が持たない経営資源やケイパビリティが必要である。経営資源(resources)とは、特許、商標、ブランドの評判、利用者基盤、組織文化、企業特殊の専門知識やノウハウをもった従業員のような企業特殊資産である。ケイパビリティ(capabilities)とは企業が他の企業よりも秀でている活動の事である。経営資源を名詞、ケイパビリティを動詞と考えても良い。

  • 価値創出と価値再分配

価値創出ではなく、価値再配分(value redistribution)に基づいて戦略を立てる事の問題点は価値再配分を巡る競争はずっと激しいという事である。

  • 業界構造の役割

企業による創出価値の合計は・創出価値=業界の平均的な企業による創出価値+その企業による創出価値と業界平均の創出価値のとの差、で表される。創出価値を確保する機会は、バリューチェーンのなかで大きく異なる。これは業界の構造がチェーンの各点で異なるためである。

3戦略的ポジショニング:コスト優位と便益優位

  • コスト優位の経済理論

コスト優位は定性的に3通りの方法で起こりうる。

①企業は競合他社と同一の知覚便益(B)を提供することにより便益の均等(benefit parity)を達成する。

②企業は競合他社よりさほど低くないBを提供することにより便益の近接(befefit proximity)を達成する。

③企業が競合他社とは質的に異なった製品を提供する場合。

  • 便益優位の経済理論

コスト優位の場合と同様に、均等と近接から便益優位を確立することができる。企業が創出した価値B-Cが競合他社を上回るためには、企業のコスト劣位は十分に小さくなければならない。

  • コスト優位と便益優位から利益を生み出す:需要の価格弾力性の重要性
  • コスト優位と便益優位の比較

・コスト・ポジションの優位性によって競争優位を確立することは次の場合に魅力的。

①規模の経済と学習の経済が潜在的に大きいが、どの企業もそれを追求していない場合。

②製品の特性が知覚便益Bを高める機会を限定する場合。

③消費者が比較的価格に敏感で、優れた品質や性能、イメージに対してそれほどプレミアムを払わない場合

④製品が経験財というよりもむしろ探索財である場合。

・便益ポジションの優位性によって競争優位を確立する事は次のような場合により魅力的。

①典型的な消費者が、便益Bを向上させる特性に対して大きな価格プレミアムを払う場合。

②規模の経済や学習の経済が大きく、他の企業がそれを追求している場合。

③製品が探索財というよりむしろ経験財である場合。

  • 機能別分野が示唆するもの

企業が競争優位の源泉として選択する方法は、製品の需要と技術特性によって導かれるが、その方法は、マーケティング、製造、エンジニアリングなど企業の機能分野における戦略を導く。機能別分野戦略が競争ポジションのアプローチに関連しているという概念は、組織論が組織の形態とその製品―市場の選択を関連付けようとする試みと同類である。

  • 中途半端

コスト優位と便益優位の両方を追求する企業はしばしば「中途半端」になり、便益優位に集中する企業より低いBしか提供できず、コスト優位に集中する企業より高いCしか提供できない。

4ターゲティングと市場セグメンテーション

  • セグメンテーションとターゲティング戦略

市場セグメント(market segment)は、大きな市場のなかにおいて共通の特徴をもつ消費者のグループである。消費者市場においては、セグメンテーションの特徴は、人口統計学上の要因(世代や収入層等)や地理上の要因(特定の地域)などである。ターゲティング(targeting)とは企業が狙うセグメントを選択し、それらのセグメントに対応して製品ラインを立てる事を意味し、大きく二つのカテゴリーに分けられる。

・全方位戦略(broad coverage strategy)

フルラインの関連製品を提供して、市場すべてのセグメントを狙う事を追求する。

・集中戦略(focus strategy)

企業の単一の製品を提供するか、単一のセグメントを狙うか、あるいは両方を狙う。

 

第13章 持続的競争優位

1 持続的に利益を出すことは困難か

  • 競争市場において持続性を脅かす要因

・競争優位の持続を論理的に議論するには完全競争の理論が適切な出発点。しかし現実では単純な構造の市場は殆ど存在しない。ただし完全競争のダイナミクスは理論が想定するよりもっと複雑な条件にも適用できる場合がある。企業が製品の特性を変える事のできる産業においてすら、新規参入や模倣によって利益機会は消滅する。

・市場参入が自由であり、模倣費用がかからない状況では競争優位を維持しえない。参入者はより低い価格でより高い品質を提供することで、市場を既存企業から奪い取ることができる。

  • 独占的競争市場における持続性への脅威

・現存の売り手が利益をあげていて、市場参入が自由であれば、新規参入企業が現れるはずである。新規参入者は、既存の売り手とほんの少し差別化することでニッチ企業となり、確実に既存の売り手から売り上げを奪っていく。

・独占的競争市場において既存の売り手が打てる手は、参入阻止をおいては殆ど無い。

  • すべての市場構造で見られる持続性への脅威

・市場参入が封じられたり阻止されている寡占市場や独占市場においてすら、既存企業の成功は長続きするとは限らない。

→企業の成功が企業自身がコントロールできない要因(天気・景気)による場合。

・平均への回帰:企業の極端な業績は善かれ悪しかれ長続きするとは思わないほうが良い。

・力のある買い手や売り手は、どんな市場構造だろうと企業を脅かす存在になりうる。莫大な利益を稼げる寡占・独占市場でこそ最も現れやすい(メジャーリーグ・ベースボール)

  • 証拠:利益の持続性

・デニス・ミュラーの研究:異常に高い収益性を達成している企業(A群)は平均で見ると、時間の経過と共に収益性を下げる傾向にあり、逆に異常に低い企業(B群)は平均で見ると時間と共に収益性を増すことを示している。これら2群の収益率は共通の平均値に収束する訳ではない。A群は長期的に見るとB群に比べて高い収益率に収束する。

2 持続的競争優位

  • 企業の経営資源理論

・競争優位を獲得する為には、競争相手より多くの価値を生み出さなければならない。それには企業が蓄積した経営資源(特許、ブランドの評判、利用者基盤、人的資産など企業特殊資産や生産要素)、およびそれらの経営資源を使う事で生み出される固有のケイパビリティに依存する。

・企業の経営資源論:競争優位が持続性を持つためには、その優位性は希少で移転不能な経営資源やケイパビリティに裏打ちされている必要がある。

  • 隔離メカニズム(リチャード・ルメルト):幸運や先見性によってもたらされた企業の競争優位を保護する働き。業界にとっての参入障壁と同等。企業が競争優位によって獲得する余剰利益を他の企業が奪っていくのを抑制する。いくつかの種類があるが、ここでは二つに大別する。

①模倣障壁:業界内または潜在的な参入企業が複製することを妨げる(キャロウェイのクラブデザイン)

②先行優位:ひとたび獲得した競争優位は時間の経過と共に優位性が強まる(シスコシステムズ)

  • 模倣障壁:5タイプの参入障壁を取り上げる。

①法規制:特許、著作権、商標等、市場参入に関する政府の規制。

②投入物または顧客へのアクセスの優位性:競争相手に比べてより取引条件で、品質や生産性の高い原材料や情報などの投入物を確保できる企業は。競争相手が模倣できないコストや品質の優位性を維持することができる。

③市場の大きさと経済の規模:市場の最少効率規模が需要に比べて比較的大きい場合は、ある企業の戦略を他社が模倣する事は抑制され、その企業は市場において大きなシェアを獲得することができる。規模の経済は、すでに市場に存在する小企業が大企業と同様のコスト優位を求めて成長する事を抑制する。

④無形の模倣障壁

・因果関係の曖昧さ(リチャード・ルメルト):優位性があるがその原因が不明瞭で不完全にしか理解できない状況を指す。

・歴史的経緯への依存:模倣障壁となるケイパビリティの特殊性がその企業の歴史と深い関係がある場合。しかし企業の成長の阻害要因になる事もある。

・社会的複雑性(ジェイ・バーニー):優位性を支える会社や個人のつきあいに関わる複雑なプロセス。

⑤戦略的適合:企業の個別活動が強固に結びつき、お互いを補強しながら一体となるところに存在する。

  • 先行優位

①学習曲線:初期段階において競争相手より多くの量を販売した企業は、学習曲線に沿って下方に移動し、競合に比べて安い生産単価を達成できる。

②ネットワーク外部性:その商品を現在使っているかあるいは近い将来に使うであろう顧客の数が多いほど、製品購入による顧客の便益が高くなる状態。

③評判と買い手の不安:経験財(購入し使わないと品質が分からない)では企業の品質に関する評判が著しい先行優位につながる場合がある。買い手は別の企業の製品についてのリスクを考えると(買い手の不安)ブランドを変える事に消極的になる。買い手の不安と評判効果の組み合わせは強力な隔離メカニズムに変化される。

④買い手のスイッチング・コスト:製品よっては、他の供給者にスイッチする事で著しいコストが生じる場合がある。買い手が代用ブランドに完全に移転できないような、ブランド特殊のノウハウを身に着けたときに発生する。

・先行優位とシェア争い

先行優位を獲得しようとすると、多くの場合は成長市場において大きなシェアを獲得することが重要になる。先行優位が一度確立されてしまうと競争は抑制されるが、先行優位を獲得しようとする企業による市場シェアの争いは激しいものになる。

・先行不利

企業よっては先駆的な商品や技術を開発しながら、マーケット・リーダーになれない場合がある。理由の一つに、製品を商品化する為に補完的な資産が欠けている場合がある。また、間違った技術や製品に「賭け」てしまい、競争優位を招き損ねる場合がある。

3 不完全な模倣可能性と業界の均衡(リチャード・ルメルト、スティーブン・リップマン)

不完全な模倣可能性のもとでは、それ以外は完全競争である市場の企業が、長期にわたって経済的利益を維持できることもあると指摘した。しかし、平均的な企業でも平均以下の利益しか獲得できず、あたかも負の経済利益を生み出しているように見えると指摘している。均衡については、多数の参入可能な企業が存在する為、期待される経済利益がプラスである限り(期待される営業利益が参入費用を上回っている限り)参入は起こる。均衡では、価格は市場参入が魅力的でなくなる水準まで落ちるはずである。

 

第16章 戦略と組織構造

1 組織構造の概要

  • 個人とチームと階層

少人数のグループによって行われる単純な仕事は、いく通りかの組織構造によってなされることが可能。多くの企業は以下の組織構造を組み合わせている。

・個人:個人の行動や成果によってそのメンバーの報酬を決める

・自己完結型チーム:共通の目標を設定、達成する為に仕事をする個人の集合体

・職務階層:グループの一人が他メンバーの仕事を監督・調整する事に特化

  • 複数階層

大企業には複数階層が必要。企業の構造には多数のグループと、それらをまとめる複数の階層があるということ。大企業におけるグループ化は極めて複雑で、関連する以下の二つの問題を提起する。

・部門化:組織を公式なグループに分割する事・業務内容や機能、投入資源、生産物などの様々な次元に従って行われる。部門化は経営者の判断を表現したものでもある。

・調整と管理:グループが決められ組織化されると、調整と管理という相互に関連した問題が生じる。調整と管理は技術効率とエージェンシー効率の問題を含んでいる。調整を推進する方法は二つあり、自律あるいは自己完結を強調するもの。もう一つは横断的関係を強調するものである。企業内の権限は集権化と分権化という関係を考慮して配分されることが多い。

  • 組織構造の種類

大規模な組織の基本的な構造には4つの種類がある。

・職能別組織(U型組織):一つの部門が基本的な業務機能(財務、マーケティング、製造等)一つに責任を持つ。基本的業務の専門化を推進する分業が特徴である。

・事業部制組織(M型組織):製品ライン、関連する事業群、地理(地域)、顧客属性に応じて組織化される。職能別組織の規模拡大で発生する非効率性やエージェンシー問題に対応する為に発生した。

・マトリックス組織:企業が同時に複数の次元(通常は2)によって組織化される、あらゆる次元の組み合わせが可能である。限られた人的資源を経済的に配分する事にも役立つ。

・ネットワーク構造:ネットワーク組織の基本単位は各従業員であり、特定の仕事や業務ではない。一人または複数の組み合わせとして従業員は、複数の組織的な業務に貢献でき、業務が変わると組み合わせが変わる場合もある。

2 コンティンジェンシー理論

  • 技術と業務間の相互依存(ジェームズ・トンプソン)

技術こそが業務間の相互依存度を決定する。業務間の相互依存とは複数の役職が自らの業務を行うためにどの程度他の役職と相互に依存しているかを意味している。互恵、順次、共同の三つが定義される

  • 情報の流れの改善(ジェイ・ガルブレイス)

企業において意思決定を下すために要する情報処理の料、複雑さ、スピードが変化する事に応じて、企業の組織上の変化が発生する。

  • 分化と統合のバランス(ポール・ローレンス、ジェイ・ローシュ)

組織を設計する場合、経営者は分化と統合の間でバランスを取らなければならない。組織構造によっては、企業の活動を十分に分化できない場合もあれば、分化し過ぎる場合もある。

 

3 組織は戦略に従う(アルフレッド・チャンドラー)

企業がどのように組織されるかを説明する為には、組織構造と、技術や情報処理の必要性などの、コンティエージェンシー要素との関係を理解する事が必要である。最適な組織構造は、企業戦略の内容、特に経営トップが最も重要と認識している要素によって決定される。

  • 戦略と組織と多国籍企業

事業部制組織の企業が成長すると海外展開が増える。海外事業が成長するにつれ、企業は組織を再構築することになり、国別に分かれた部門を特徴とする多国籍企業が形成される。

  • 組織と戦略と意思決定

大企業における最も重要な知識や意思決定能力は、上級マネジャーに集中しているのではなく、企業全体に広く散在しているので、組織構造は戦略に影響を与える。組織の階層を上がってトップに届く情報や意識決定項目は、組織構造によってさまざまな偏向を受ける。

  • ルーティンや問題解決補助としての組織

企業の活動は一連の複雑な行動パターン(=ルーティン)の結果である。このルーティンは企業が外的環境に適合していくにつれて進化する。

問題解決補助とは、意思決定者が困難で非日常的な問題を解決するために費やす平均的な時間を短縮するための、原則あるいは指針を意味する。

意思決定を下す場合に、上級マネジャーはルーティンに制約され、従来の決定を踏襲するか、追加的に変化させる。大規模な戦略変更は稀であって、全社的な組織の再設計も同様である。したがって、戦略と組織に関する現在の意思決定は、過去の意思決定に強く制約される。

 

所感

大学院1年第2セメスター経営戦略論の講義で使用されたテキスト。講義毎に各自レポートを作成、プレゼン担当時は5枚以上、それ以外は1枚以上という手法。講義時は先ず課題の章を振り返り、グループで疑問点を洗い出す。そして担当者がプレゼンし、提示された疑問を説いていく、というルーティン。テキストは重厚長大。翻訳が難解な部分もある。主としてグローバル企業の経営戦略には有用だろう。決して理解し易いとは言えない。しかし「分からないものを分からないなりに苦しみながら読むのも大学院」という先生の言葉に納得。その通りだ。自社の規模を鑑みれば当てはまることは少ない。しかし、分業や垂直統合のエッセンスは今後の事業展開に役立つだろうと思った。行政組織も大きいので組織論については興味をもった。チャンドラーを読んでみたいと思う。

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