経済学「ゲームの理論」

経済学・第8章・ゲーム理論
学生:北村貴寿 16115012

Ⅰ 囚人のディレンマ
●ゲームの理論とは
経済主体間の相互依存関係にかかわる問題を考えるのに有益とされる分析手法。経済や政治に見られる戦略的行動や相互依存関係を数学という手法によって整理・発展させたもの。きわめて抽象的な思考を要求する分野。
・戦略的行動
伝統的な経済理論は完全競争を中心に考えてきたが、現実の経済現象には描写しきれない多くの問題がある。戦略的行動は自分の行動が相手にどのような影響を及ぼすのか予想しながら自分の行動を決める事。
・ゲーム理論の歴史
「ゲームの理論と経済行動」フォン・ノイマン、モルゲンシュテルン1944年発表:ゲーム理論の始まり。
「ナッシュ均衡」ジョン・ナッシュ:ゲーム理論発展に大きく貢献。

Column:ジョン・ナッシュ(1928‐2015)

映画「ビューティフルマインド」の主人公として画かれた天才数学者。ゲーム理論にナッシュ均衡という概念を導入、理論を発展させた。若くして精神病を患うが克服。ノーベル経済学賞受賞

●囚人のディレンマ

8-1

図8-1は最も良く使用される例。四つの状況が表されている。
①右下:二人とも罪を否認すれば証拠不十分で無罪。しかし長期間の拘留、厳しい取り調べがある。二人とも利得は-2。
②左上:二人とも白状し二人とも有罪。利得はともに-10(①より利得が小さいことが重要)
③左下:山田が否認、加藤が白状。加藤は許してもらえるが、山田は②より重い罰を受ける。
④右上:③の逆
ゲームの結果は両者が白状してしまい、各プレイヤーの利得は-10となる。相手がどちらの行動をとっても自分が白状したほうが利得が高い為。
・プレイヤー:ゲームを行っている人たち。状況によって様々な主体がプレイヤーとなる。
・戦略:各プレイヤーがゲームの中でとる行動(あるいは行動ルール)環境や相手の行動に依存して決まる行動パターンも含む。
・利得:各プレイヤーの得失結果。自分だけでなく他プレイヤーの戦略にも影響を受ける。

Column:ゲーム理論とゲーム

ゲーム理論ではトランプやチェスで使われる用語が利用される。「プレイヤー:ゲームを行う人」「利得:勝ち点や損失額」トランプやチェス等のゲームもゲーム理論の分析枠組みで考察できる。その分析そのものがゲーム理論の基礎となる。

Column:囚人のディレンマ的な現象

自分の為にとって良いと考えて行動したことが、お互いに迷惑を及ぼして結局誰の為にも良くないという現象は現実社会に色々な例がある。満員の野球場観覧席。高速道路の混雑等。

●囚人のディレンマの解釈
囚人のディレンマの所以:二人とも否認すれば-2になるが、二人とも白状してしまう。別々に取り調べを受ける為、お互いを信頼して行動できず、利己的な行動を取ってしまう。

8-2

図8-2は類似例を表す。それぞれのプレイヤーの戦略は優越戦略と呼ばれる性質を持つ。
・優越戦略:企業間競争の例でいえば、相手がどちらの戦略をとっても価格競争を行うのが望ましい。つまり、価格競争は価格協調に比べて優越している。しかし、全てのゲームに当てはまるわけではない。

Column:瀬戸際戦略

自らの危険も顧みず、状況を危機的な水準まで持ち込むことによって相手の譲歩を引き出そうとする政策。北朝鮮の核開発やミサイル実験等。ただし突発事故的な動きで破壊的な状況になる事もある。非常に危険な行為である。

Column:米ソ間のホットライン

囚人のディレンマの重要な特徴はそれぞれのプレイヤーの意思疎通ができないこと。米ソ間の軍拡競争が起こった際、危機的状況を避ける為に米ソ間のホットラインが設置された。

Ⅱ ジャンケン、チキンゲーム、そして異性間の軋轢
囚人のディレンマ以外の単純な三つのゲームの例。それぞれのゲームには異なったパターンの相互依存関係がある。
●ジャンケン

8-3

図8-3はジャンケンのゲーム。
・ゼロサムゲーム:一方が勝つときは必ず他方は負ける。また、どのようなケースでも相互の利得を足せば0になる。ゼロサム(足して0)の語源でもある。他にチェス、将棋、野球など。
・ノンゼロサムゲーム:囚人のディレンマの場合は両者が強調すれば両者の利益になるパターンがある。
・ナッシュ均衡:すべてのプレイヤーの戦略が、それぞれ相手のとった戦略に対してベストの戦略になっている状態。ジャンケンの場合は両者が1/3の確率でそれぞれの手を出してくる状態。
●チキンゲーム

8-4

図8-4はチキンゲームとして知られている例。二つのナッシュ均衡(①太郎=加速、次郎=減速 ②太郎=減速、次郎=加速)がある。どちらになるのかで立場が大きく異なる。
●バトル・オブ・セックス

8-5

図8-5はバトル・オブ・セックス(=異性間の軋轢)というゲーム。勝負・衝突というチキンゲーム比べ協調・協力の要素が入る。二つのナッシュ均衡(①太郎=ボクシング、花子=ボクシング ②太郎=ミュージカル、花子=ミュージカル)がある。

Column:生物学、進化論、そしてゲーム理論

ゲーム理論は生物学などでも利用される。ハトとタカの例のように自然界では変化する環境の中で淘汰が起きており、環境に最も適した種族が生き残る事になる。遺伝子の突然変異なども織り込みながら多様な生物が多様な戦略(特性)を持ち共存している壮大なゲームが行われている。

Ⅲ 協調のメカニズム
●囚人のディレンマと協調行為
現実世界では囚人のディレンマの問題が回避されている事が多い、意思の疎通を図ることでお互いを信用し、行動することができる状況があれば協調が生まれる。企業のカルテルや軍縮会議等。
・カルテル:寡占的な産業で企業が結託し、価格の引き上げを狙う行為。

Column:談合

協調は良い事のように思えるが、企業が競争をしないで協調する事は、利用者のコスト負担が大きくなり社会的に好ましくない。企業が協調して価格をつり上げたり、競争を避けようとする行為をカルテルという。カルテルの一例として談合がある。公共工事の競争入札等において業者間であらかじめ受注の順位を決め、高いコストで落札するように調整することを談合という。結果的には工事費用を上げる事になり納税者が負担する反社会的な行為であり、公正取引委員会が摘発する。

●継続的なゲームと協調の発生

8-6

図8-6は価格競争における協調のメカニズムを表す。繰り返しゲームが行われる場合には、相手の仕返しを恐れて各経済主体は協調を維持する誘引を持つ。戦争の中にも見られる。

Column:日本的取引慣行

継続的な取引が続くと協調関係が生まれる現象がある。戦後の日本経済を支えた取引慣行であり、終身雇用もこれにあたる。近年は社会の変遷により変化がみられる。

Ⅳ 経済政策とゲームの理論:ルールか裁量か
●金融政策のあり方に関する論争
1970年代前半、日本は激しいインフレに見舞われた。一部の経済学者は日本銀行がマネーストックを増やしたことにある、と指摘。対して日本銀行の一部のエコノミストは、投資ブームで金融機関の融資が膨れ上がっていた。日銀が信用供与を増やさなかったら資金需要が逼迫し大混乱をきたす。マネーストックの増加は仕方のない事だと反論した。
→マクロ経済政策における「ルールか裁量か」という思想の違い。ゲーム理論が有用。
日本銀行「裁量」:経済状況に応じて金融政策を調整すべき
経済学者「ルール」:経済に大きな変動が起こさないようマネーストックにぶれが無いようにするのが金融政策の基本
●ゲームの樹による表現

8-7

図8-7は「ゲームの樹」と呼ばれるものでゲーム理論分析を行うにあたり有益な分析手法。「相手の立場に立って考える」という視点が重要。市銀が日銀の立場に立って合理的な行動を考え、日銀の行動を予想する。市銀が過剰融資すれば日銀が信用拡大することが日銀にとって合理的。市銀は過剰融資に走る事になる。

●ルールか裁量か:経済政策の機能とは

8-8

図8-8は「図8-7ゲームの樹」を広い視野で見た図。日銀がルール主義(k%ルール)をとるのか裁量主義を取るのかで市銀の行動パターンが変わってくる。日銀がルール主義にコミットすることが合理的選択となる。単純な例なので常にルール主義が正しい、という訳ではないが、経済政策の考え方について重要な示唆を与えている。

Column:ミルトン・フリードマン(1912-2006)

自由主義的なシカゴ学派の重鎮。自由主義的な経済政策に強い影響を及ぼした経済学者で1976年にノーベル賞を受賞。貨幣数量説を主張し裁量主義のケインジアンと対立。近年はケインジアンを圧倒。

・コミットメント(コミット):自らの行動を縛ることにより相手の行動に影響を及ぼす。この場合、日銀がルール主義にコミットする事で、市銀は日銀が過剰融資をしても助けてくれないと考えるので慎重な融資を取ることになる。
・裁量主義:現実に応じて経済をより好ましい方向に持っていこう、とするのが経済政策の主要な機能だと考え景気対策などを実行する。この例でいえばマネーストックを調整することで景気や金融を安定させようとする。
・ルール主義:政府の政策スタンスそのものが民間経済主体の行動におきな影響を及ぼすと考える。どのような状況でもマネーストックを安定させれば、市銀が過剰融資を取らないだろうと考える。

Column:中小企業支援策の問題点

政府の中小企業支援策は社会的に好ましいか議論が分かれる。政府の支援によってリスクを考えない無謀な投資行動が懸念される。安易に中小企業を支援するという姿勢をとりつづけるのは結果的に「甘え」を生み出す可能性がある。何があっても支援しない、というコミットが中小企業は慎重になり、結果的に一番有効な中小企業強化策であるかもしれない。

Ⅴ 参入阻止行動:から脅しとコミットメント
●から脅しは通用しない

8-9

図8-9は図8-7の名称・利得を置き換えて参入阻止行動の分析に利用できる。
・効果がない「から脅し」:イオンが参入してくれば価格競争しかける、という「脅し」は、合理的な判断に基づいて行動すると想定するゲーム理論の世界では通用しない。

Column:後追い戦略を考える

状況によっては後から行動を起こしたほうが有利な事もある。イェール大学のビジネススクールを基にした「戦略的思考とは何か」(A.デキシット・B.ネイルバフ)で紹介されたヨットレースの事例のように、後から一気に追い抜くという戦略が考えられる。他の企業が出しているヒットしそうな類似品を、他社より優れた生産力や販売力で展開し、市場の有利な位置につける事ができる事がある。

●参入阻止行動

8-10

図8-10は図8-9を膨らませたもの。無駄な費用をかけても店舗拡張することが新規参入を防ぐことができるという事を表している。ヨーカ堂の店舗拡張というコミットメントがイオンの出店誘引を変えることができる。
・コミットメント:相手が仕掛ける前に相手の出鼻をくじく行動を起こすという戦略的行動の姿。あらかじめ自分が行動を起こすことで、自分や相手の利害関係を変えてしまい、結果を有利にしようとすること。市場や社会のいたるところで見られる現象。

Column:小さな町には大きな店を、大きな町には小さな店を

既に存在する店の規模が十分に大きいと、後から参入することは難しい。小さな町になれば消費者が少ないので、大きな店が二つ生き残る事は不可能である。全米最大の小売業チェーン・ウォルマートは田舎の小さな町に巨大な店を次々に作り、新規参入を妨げる戦略を取った。一方、大都市ではいくつもの店が共存する可能性があるので、大きなコストをかけて巨大な店をつくると投資回収できない可能性がある。大きな町には様々な需要があるので、コンビニのように小さな店を作ったほうが確実に稼げる。「小さな町にはウォルマート、大きな町にはセブン・イレブン」と言い換える事ができる。

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