MIE地方創成ベンチャーサミット2016
基調講演「地方創生とベンチャー」地方創成担当大臣 石破 茂
歴代政権は地方の発展を掲げてきた。ただし、安倍内閣の下で進める地方創生は今までの取り組みとは全く違うものであると考えて頂きたい。それは、失敗したら国が潰れるという強い危機感に基づいて政策を展開しているからである。
軍事力がバランスした東西冷戦を経て経済成長し日本も発展したが、現在は安全保障も厳しく、人口が急減している。今のままの出生率と死亡率が続けば、何もしないと2100年に5200万人、2210年(200年後)1391万人、2310年(300年後)423万人、3000年には1000人になる。人口が減ると悪い事ばかりではない、という言われる方もいるかもしれない。明治時代は人口3000万人、大正、昭和初期5000万人であった。しかし、人口構造が違っており、現在よりも生産年齢人口が多かったという事を忘れてはいけない。
今後、東京は2つの大課題に直面する。
1、都市の危険度世界1位。ドイツの保険会社等が算定、原因は災害対策、地震対策等。
2、極端に流入した生産世代が高齢化、人類が経験したことのない速度の高齢化が進む。
これまで地方と言われるところでも人口が増加する賑やかな時代があったが、それは公共事業と企業誘致によるものが大きい。道路港湾整備、大量生産大量消費の時代であった。
一人あたりの名目県内総生産がそれを表しており、製造業の多さに比例している傾向があった。しかし、現在すでに進行している人口減社会においては、公共事業も大量生産が景気の牽引役とはならないと考える。今後の成長産業と考えているのは、農業や観光、サービス業である。日本の気候、土、光、水、農業に必要な良い条件がそろっており、生産物のクオリティは既に世界で戦えるレベルである。
観光は4要素、四季、自然動物、伝統文化芸術、食べ物で決まると言われる。現在の外国人観光客数2000万人ではまだまだだと考えており、日本の5000万人超えの潜在力があると考えている。これまでイタリア・フランス等、諸外国に勝てなかったが、勝とうとしなかっただけではないか。オーストリアは国内人口の3倍の観光客が来ている。
日本の観光4要素は世界で勝負できるがレベルだが、足りないのは地域の細やかな情報である。インターネットは宿泊予約までであり、その先のローカルな情報が不足している。例えば九州で走る観光列車7つ星は世界一の品質を誇る。超高額で、予約も抽選だが、引きも切らない。「何処でも、だれでも、いつでも」から「今だけ、ここだけ、あなただけ」という個人のニーズに対応できなければならない。
農業、漁業、林業が衰退した原因は、政策が時代の変化に対応できていない為である。米に代表されるが、減反政策に代表されるが、保護し過ぎて弱くなったのではないか。
日本のEZZ・排他的経済水域は世界6位の広さでありながら、漁業資源管理が上手くいっていないし、国土の70%は山林であるが、戦後の造林政策の甘さが輸入木材の攻勢を許した。欧州で開発されたCLT(Cross Laminated Timber クロス・ラミネイティド・ティンバー)工法で、ヨーロッパでは10階建ての木造建築が出現、理論的には30階建てまで可能である。総じて諸外国に比べ日本は労働生産性が低すぎるが、これを伸びしろがあると考えたい。
地方創生の重要な課題として、地方での雇用創出がある。
今後も農業、漁業、林業、観光を振興し雇用に繋げたい。しかし、これまでのやり方だけでは難しいと考えている。雇用を創出する為のイノベーションを担うのはベンチャー企業である。新しいサービスや付加価値を創出し、インターネットで全国、世界に売り込める。
東京で受注するが、地方で仕事をやるスタイルも確立されつつある。東京に集まる仕事の再分配が可能になるし、IT環境さえあれば本社の所在地も関係がない。
ベンチャーの力をかりて地方に雇用を創出する為には、起業しやすいまちづくりも重要になる。地方の良いところはまちづくりを担う行政との距離が近い。東京都で知事に会おうと思えば1年待ちとも言われる。所謂縦割り、前例主義、と言われている行政をどう変えるかも起業しやすさ、雇用の創出に関わってくる。若年層に、女性に、高齢者に、地方に仕事を生み出すためには、新しい価値が必要だが、その担い手となる起業家のスタートアップを応援する事が行政に求められている。地方創生の一環として、全国の自治体に総合戦略の策定をお願いしている。民間の知恵を借りながら、どのようにして地方の未来を作っていくか。どのようにして民間の創意工夫を伸ばしていくかが問われることになる。また、策定しただけではなく、数値目標を定めて、KPI(Key Performance Indicators,重要業績評価指標)を用いながら評価、検証を行っていく。
まちを変える、地域をつくる、という手法の一つに政治家になる、という手法もある。これもベンチャースピリッツである。地方創生で日本の未来を変える為に、皆さんのお力をお借りしたい。
・トークセッション
スピーカー:
三重県知事 鈴木英敬
スタートアップ都市推進協議会 福岡市長 髙嶋宗一郎
熱意ある地方創成ベンチャー連合
・代表理事 ランサーズ(株)代表取締役社長 秋好陽介
・代表理事 アソビュー(株)代表取締役社長 山野智久(モデレーター)
地方創成とは地方に雇用を創出し、人口減少に歯止めをかけることである。三重県の例として、南部地域の高齢化率が高い美浜町では1年中ミカンが採れる。これまでミカンの皮は産業廃棄物だったが、産官学でバイオ燃料を開発するベンチャーを立ち上げている。
また、三重の魚を安全でおいしい離乳食として提供するビジネスや、トマトの植物工場が上げられる。今後、農林水産業でベンチャーを興すために、農業版MBAをつくろうと考えている。無い者をつくるのは難しく、ある物を活かすことが必要である。自然体験を観光ベンチャーに活用したいと考えており、民間と県が組んでビジネスにしたい。その為に観光専用のファンドを設立する。また、子育て中のママを集めて、仕事や保育の時間シフトを組んで雇用に繋げている。
福岡市は年間14,000人の人口増。人を集める街には2つの要素があると考える。それは仕事とドキドキ感=わくわくする街であるかということである。福岡は九州電力などインフラ系大企業の経済社会と言われるが、数パーセントに過ぎない。実態は中小企業の第3次産業、サービス業が中心である。消費者を呼び込むPRが重要で、九州新幹線で降りてくれる理由が必要である。
ベンチャーは地方創成そのものである、実際にベンチャー企業は雇用をつくっており、企業の中で創業3年以内が8.5%を占めるが、全ての新規雇用37%を作り出している。創業して10年以内企業は雇用をプラスにしているが、10以上になると雇用を減らしているという統計がある。企業が新しく生まれない限り、新しい雇用が生まれないという事の証左ではないか。
昨今のベンチャーや企業はIT×既存企業である。今地域にある物をITで再編集。ベンチャー(アイディア)×既存企業(販路、資金、経験)=新しい価値を創出する。
但し、ベンチャー企業と地域・行政が組むのは、関係性が構築されておらず、ハードルが高い面もある。行政とタッグを組む企業はどうしても大手が多くなりがち。福岡は積極的にベンチャーと組んで成功事例をつくり、全国のロールモデルになりたい。
自治体の中でも上手くいくところと話が進まないところがある。上手くいっているのは熱意を持っている地域創成人材、地域アクセラレーターがいる地域である。起業に関わらず、地域をけん引するには元気な人が必要。都心にも故郷を盛り上げたい人が存在する。大いに活用してみてほしい。総じて新しいチャレンジが必要であり、起業による雇用創出が人口減少に歯止めをかけていくと考える。
第一分化会・第一セッション「創業・イノベーション」
モデレーター:三重大学副学長 西村訓弘
スピーカー:
(株)医用工学研究所 代表取締役 北岡義国
経済産業省 新規産業室 石井芳明
キラメックス(株) 代表取締役社長 村田雅行
(株)ホープ 代表取締役社長 時津孝康
日本の産業構造の変化に伴い。地方での創業や地域資源を活用したイノベーションが地域に雇用をもたらす手段として注目されている。地方で創業する為の実現方法や、地域の伝統技術、素材など地域資源活用によるイノベーションについて議論がなされた。
スピーカーはそれぞれ個性のある創業者。日本で創業する環境が整っていない中で起業した。福岡で創業したのだが、首長が変わって創業に関する機運がかなり変わった。11年やっているが「東京に来ないか」とばかり言われている。優秀な人材も地方で安価で採れる。目立てば家賃が安くて、行政支援が受けられる。
三重県で創業するハンディキャップは感じたことが無かった。三重から世界へと考えていた。マーケットを三重だけとは考えていない。全国に営業を掛けるにも地理的に便利なところである。ライフイノベーション戦略特区の指定を頂き、三重県・三重大学とベッタリくっついて事業を展開している。これは戦略的不平等であり、全国の国立大学のシステムを構築した。昨今、操業については地域の大学と組むという事は、新しい事を始めるには必然になりつつある。バイオ事業などは長期的な研究開発が必要である。世界と戦えるベンチャー企業をつくるには、産官学のタッグが必要である。
地域(商店街、地場産業、農家)の資源を活かして、行政とベンチャーが組む時に3つの重要なポイントは、
・首長のやる気、リーダーシップ
・現場を熟知する職員が動けるかどうか(係長クラス)
・自治体が外部に対してオープンか?
行政は平等性に重きを置いて行動する習慣があるが、それではベンチャーは育たない。
既に現実は自治体の勝ち残りゲームである。これから地域に起こる、起こさなければならないのは、新結合・第二創業的なイノベーションである。
創業環境としては良くなっているが、創業者、経営者のレベルをしっかり高めなければならない。雨後の竹の子のような状態が常態化している。あっという間に淘汰されるだろう。
日本中何処にいても、同じことができる。地方にこだわる事も重要だが、こだわり過ぎるといけない。地方から世界にでて勝負する、という気概が必要。東京には負けない、自分が地域を背負っているというプライドを持って創業してほしい。
最近こういったセミナーが増えている。学ぶことは大切だが、受けた刺激を行動に移すことがもっと重要。
第二セッション「観光」
モデレーター:東洋大学 准教授 矢ケ崎紀子
スピーカー:
(株)赤福 会長 濵田典保
(株)北海道日本ハムファイターズ チーフディレクター 佐藤 拓
アソビュー(株)代表取締役社長 山野智久
BIJIN&Co.(株)代表取締役社長 田中慎也
観光を通じた交流人口の増加が、地方における消費需要の増加や、新たな市場創造、雇用創出の機会として期待されている。地域資源の活用、インバウンド、スポーツビジネス等、それぞれの分野から地方における観光産業の未来について議論が展開された。
旅行消費は24兆円の市場であるとされ、新しい取り組み、企画が不足しているのではないかという危惧がある。実際に国内旅行は実施率が低下してきている。
新しい事は周辺から起こるという。近年は「エクスペリエンス・コレクター」なる嗜好が生まれている。メジャーな観光スポットの情報がネット上に氾濫、それ以上のコト消費を提案することが必要になる。それは三重県であれば、真珠養殖の為のアコヤ貝磨きやアオサ漁のようなものが上げられる。
第三セッション「新しい働き方」
モデレーター:横須賀市長 吉田雄人
スピーカー:
(株)FIXER 代表取締役社長 松岡清一
日本マイクロソフト(株) 砂金信一郎
ランサーズ(株)代表取締役社長 秋好陽介
(株)IBJ 代表取締役社長 石坂 茂
少子高齢化に真正面から取り組み、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現に向けて、地方における新しい働き方、女性・高齢者の活躍の実現について議論がなされた。
クラウドプラットフォームを扱うグローバル企業にいると、日本の地位が低下していることを感じる。多くが中国やシンガポールやインド見ている。東京だけでは解決できない。地方で活躍するエンジニアを育成しなければならない。
クラウドソーシングでは東京の仕事が地域に80%再分配されている。社員は130人だが、クラウド上では世界規模の仕事をする場所を提供しており、4万人以上のワーカーがいる。インターネット環境があれば、子育て中の主婦でも、1日数時間のテレワークで定期的に収入が得られる。マイクロソフトでは地方都市に住みながら、世界を相手に仕事ができるか社員を家族と共に移住してもらい実験したところ生産性が上がった。職住近接という要因が大きい。テレワーク環境があればどこでも仕事ができるという事。満員電車に乗らずに、自然豊かなライフスタイルを楽しみながら仕事ができる。タブレット・スマートフォンがあれば、事務所や固定電話を持たず、固定経費を抑えながら仕事ができる。
行政はプラットフォームの一つ。民間の皆さんの力を借りたい。行政はイノベーションが起こりにくい組織だが、打てば響く行政を実現したい。
所見:伊勢志摩サミットを100日後に控え、活況の三重県が主催した「MIE地方創生ベンチャーサミット2016」に出席した。新たなビジネスを創出し、イノベーションや価値創造を伴うベンチャー企業は、地域における雇用を生み出し、経済を活性化させるなど、地域創生の実現に貢献することが大いに期待されている。三重県ではこれまでの創業支援に加え、グローバルな視点を持ったベンチャーの創出を促進するために、国内外のベンチャー企業や創業予定者、支援機関、大学、政府、行政等が一堂に会して、地方発ベンチャー企業の創出に向けた機運醸成と新たな交流を図る機会として開催したとのこと。会場には見たところ20代、30代と思われる若い起業家が多数出席しており活気に満ちていた。今ある資源を活かしながら(もしくは更に活かすために)新しい付加価値を加え、ITを活用して構築されたプラットフォームに多くの消費者を呼び込み、成功を掴んだトップランナーたちは、アニマルスピリッツに溢れていたように思う。また、福岡市に代表されるスタートアップ都市推進協議会の行政トップはベンチャー企業との連携・提携を深めており、リスクを恐れず事業を展開している様子が伺えた。公平、平等、堅実さを重んじ、ともすれば石橋を叩いて渡らないと言われる行政だが、戦略的不平等という言葉を使いながら、次々と新しい取り組みを披歴されるその姿には、その街の元気さや将来への期待を感じさせる。
ベンチャー企業というと、海のものとも山のものとも思えない、危うさと怪しさがあるものだ。しかしそこに新しいビジネスが生まれているのも事実である。
「何事もやってみなければわからない」そして「リスクを恐れず、失敗も糧として再チャレンジする」という普遍的な価値観に立ち、まちづくりを進めるべきだと再認識した。
今回のサミットではITによって地理的、時間的制約を超越した事例を多数学ぶことができた。大村市に存在する様々な資源を全国に、世界に売り込むようなベンチャースピリッツを行政に期待したいところだ。また、議会は事業の費用対効果をチェックする機関でもあるが、新たな挑戦を見守る態度も必要だと感じた。45分のセミナーを5連続受講したが、時間を忘れさせる有意義なサミットであった。
文責:北村貴寿
「ボートレース常滑」は他の議員が担当します。