自治体を民間が運営する都市

自治体を民間が運営する都市
米国サンディ・スプリングスの衝撃

オリバー・W. ポーター (著), サム田渕 (監修), Oliver W. Porter (原著), 東洋大学PPP研究センター (翻訳), 根本 祐二

英訳本が部数を伸ばすのは翻訳者の手腕に掛かっているといってもいいが、残念ながら読みやすいとはいえない。
テーマも非常にマニアックだし、勉強のために読む本だろう。
読了まで時間がかかったし、何度も読み返し線だらけになった。
おいそれとはお勧めできる本ではないが面白かった。

アメリカはジョージア州に2005年に誕生した新しい市「サンディ・スプリングス」
その誕生から画期的な行政運営、PPP=パブリック、プライベート、パートナーシップについて論じてある。

この市は人口9万人、現状の行政サービスに満足できない住民が完全なるボランタリーで新しい市を立ち上げ、その行政運営を民間企業に一括委託している。

それまで行政サービスの主体はジョージア州フルトン郡(市より一つ上の行政機構)が担っており、公務員が居なかったわけではない。

しかし住民の現状に対する不満と強烈な自治意識が新しい市を誕生させた。
その経緯は効率的かつ刺激的で革新的。誰もが「そんなことは不可能だ」という事をやってのけたのだ。なんて凄い冒険なんだろう。

行政効率を上げる為に合併を勧める我が国の発想とはま逆を行くが、そこに民間の力を注ぎ込むことによって、納税者にとって効率的な行政サービスを実現し、それを他の自治体へも波及しつつあり、広域なスケールメリットが生まれている。

・市長の給与は年250万
・市議は年150万(アメリカではパートタイムであたりまえ)
・治安以外の公共サービスを全て民間企業に委託している。
・公共サービスにインセンティブをしっかりと「これまでの行政が1億掛けてやっていたサービスを。民間企業なら7000万でできる。ならば8000万で提供し、1000万の利益を企業が取るのは正しい」
・市の職員は民間企業の職員となる。給与に差が付き失職する可能性がある。
・市の幹部の仕事は付託された税による公共サービスの効果と効率を最大化することであって、公務員に職を提供することではない。

最大のリスクはこの企業の倒産だが、それについても予防線は張ってある。
すこし脆弱かなあ、とも思うが、新しい市を立ち上げることが出来た住民達には大したことが無いのかもしれない。
新しい市が設立される時点では、企業にとっても行政サービスの一括委託は前例のないビジネスだった。市と企業が日進月歩でこの新しい試みを醸成させてきたといえる。
それは独占状態にもなったのだが、同じサービスを行う企業も出現した。
選択肢が増えて競争がもたらされる事によって、さらに効率性が上がると同時に公共サービス継続性のセーフティネットにもなる。

巻末には日本での可能性について具体例を挙げてあります。
アメリカと日本の行政は違う。その違いを踏まえて、日本で進みつつある民間委託、移譲、などが比較されている。

この冒険を成功させる為に必要なのは何だろう。

大局を見失わない政治。
既得権益の打破に躊躇しない強烈なリーダーシップ。
変化と進化を厭わない住民だろうか。

帯には「母屋はお粥で離れはすき焼き」の塩爺の写真が。
東洋大学の総長やってんですねぇ

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