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会派先進地視察報告書

1.視察日  平成29年10月31日(水)

2.視察地  神奈川県横須賀市

3.参加者  市議会会派「みらいの風」

4.視察項目 「エンディングプラン・サポート事業」について

5.視察内容

会派視察にて横須賀市に赴き「エンディングプラン・サポート事業」について横須賀市福祉部次長・自立支援担当課長 北見万幸氏に説明を受け、質疑を行った。

 

横須賀市は神奈川県南東部の三浦半島に位置する都市である。市域の東側は東京湾、西側は相模湾に面する。中核市に指定されており、人口40.1万人、面積100㎢、一般会計1456.9億円、財政力0.8。市内の行政・経済的都市機能が集中する東京湾岸には大工場や住宅群がひしめきあうが、相模湾岸には自然が多く残され農業も盛んである。

東京湾の入口に位置するため江戸時代から国防の拠点とされ「軍都」としての歴史がある。明治時代より大日本帝国海軍横須賀鎮守府を擁する軍港都市として栄えた。現在もアメリカ海軍第7艦隊横須賀海軍施設および海上自衛隊自衛艦隊・横須賀地方隊および陸上自衛隊武山駐屯地・久里浜駐屯地などの基地が置かれている。また自衛隊関係の教育施設(防衛大学校、陸上自衛隊高等工科学校)も置かれている。

基幹産業が景気に左右されやすい重厚長大産業であることが災いして、市民の所得水準が低く、多くの人口を抱えながら市民税の収入が県内でワースト3であり、市の財政は市債と地方交付税に頼らざるを得ない。経常収支比率は100.1%であり、財政状況は硬直化している。市債償還が財政を圧迫しており、財政は非常に苦しい。年間数千人単位の人口減少に見舞われており、若年層が、横浜や東京都内に流出している。

 

横須賀市の高齢化率は約30%、神奈川県内では最高クラスである。特に三浦半島地区は県内最高の高齢化率となっている。市内約12万人強の高齢者の内、独居老人が1万人を超えており、独居老人の生活保護率は19%。引き取り手のない無縁遺骨が増加しており、平成15年度は16人(身元不明者5人・住民登録者11人)だったものが、平成26年度に60人(身元不明者3人・住民登録者57人)となった。住民登録もあり預貯金もあるが、遺骨の引き取り手が無い、というケースが増加している。

 

この施策の発生源はある生活困窮者が孤独死したケースである。70代後半の独居男性が自宅で死亡していた。こたつで冷たくなっているところを隣人が発見。事件性はなく、そのまま火葬され、費用は公費で支払われた。年々増加している一般的な孤独死のケースである。その男性のたんすの中から遺書と思しき、書き置きが発見された。

 

「生活福祉課様 私し死亡の時 15万円で火そう 無いん仏にしてもらいせんか

私を引き取る人がいません あにとぞお願い致します」(原文ママ)

 

紙は三枚組シャツの袋に入っているような厚紙であった。裏には鉛筆で何度も練習し、書き直した跡があった。その男性はまさに爪の火をともすような苦しい生活費のなかから「自分の葬儀費用だけは」と貯金をしていたのである。しかし、その「葬儀費用」は法律上その人の意思が確認できなければ誰も使う事ができない。男性が残した「最後の意思」は誰にも汲み取られず、宙に浮いたままとなった。

 

近年リビング・ウィル[1]や終活の意識啓発が進み、社会福祉法人やNPOが生前に終末期の延命治療や葬儀についての意思確認や、記録・伝達を行う事業が広がっている。一般的には有料で、親族の協力が必要となる。しかし、身寄りのない生活困窮者はその費用の捻出が難しい。そのような社会的弱者の終活支援を行うのが横須賀市のエンディングプラン・サポート事業である。

事業概要は、葬儀・納骨・死亡届出人の確保といった一連の終活支援相談。およびリビング・ウィルの保管である。支援対象者は独居で身寄りがなく、月収が約16万円以下で預貯金は225万円以下、不動産を保有しない65歳以上の横須賀市民。戸籍上の親族がいる場合であっても、長期にわたり交流が皆無である等、事実上身寄りがない場合を含むなど柔軟に対応している。

生活福祉課が相談窓口となり支援対象者の希望を反映した終活プランを作成する。対象者は協力葬儀社(現在9社)の葬祭プランから選択、葬祭費用を事前に預託する。葬祭費用は原則として206,000円であり、生活保護の葬祭費用が基準となっている。対象者と葬儀社を市が「仲介」し生前契約を結んでいる。

リビング・ウィルについては病院からの問い合わせに備え、市と協力葬儀社の両社で保管する。また、その内容を記載した登録カードを作成、携帯用および自宅の玄関先に貼り付け緊急時に備える。葬儀社は年中無休であり、市の窓口が開いていない場合でも対応。終活プラン策定後は、定期的な安否確認(三か月毎に訪問・月一回電話確認)を行っている。

葬儀社は最低限の費用で葬祭一式を行い、安否確認、リビング・ウィルの保管まで協力するので収益的なメリットは少ないが、CSR[2]の一環と理解しているということだった。

想定されるリスクとして、契約を結んだ葬儀社が倒産や廃業するのではないか、という懸念があるが、その場合は公費にて葬祭費用が賄われる。

 

図らずもこれまで公費負担だったものが、対象者の預貯金で賄われることになるので、行政費用の削減にもなる。インターネット上には公費での葬祭費用削減が目的なのではないか、という批判が出た。しかし、生活保護についての財源は国が75%を負担する。27年度および28年度の終活プラン発動は各1件であり、横須賀市の行政規模からすれば、さほど影響のある額でもない。そして、北見課長は「そんな短絡的な事業ではない」という。

相談件数 プラン登録 終活プラン発動 無縁納骨数

(26年度60柱)

27年度 107 5 1 35
28年度 124 6 1 34

 

この事業は、市と民間葬儀者が協力して対象者の「最期の不安」を和らげ、高齢者の孤立を防ぐという困窮者支援事業である。相談支援を受けた対象者は総じて「これで安心して死ねる」「墓が決まって気持ちが楽になった」と安堵するという。また、葬儀費用の貯金を始める対象者もあったとか。

 

無縁仏の遺骨は市が設置する集団無縁納骨堂に収められてきた。孤独死が増え、ここ数年は常に満杯。新しい遺骨を安置する為に、古いものから約3年で取り出し、骨壺は職員が割り砕いて廃棄。遺骨も砕いて土に還すという。その「作業」にあたる職員らの心境たるや。

 

人間の命は等しいはずだ。弱者にも「死の尊厳」はあるはずだ。

 

そんな思いがこの事業化を推進したのだと拝察する。説明する北見課長は、対象者の話をされる折に言葉に詰まり、涙ぐまれていた。「市民を幸せにしたい」という同氏の人柄、役人魂を垣間見たような気がする。この説明資料には「~市民を、ひとりも無縁にしたくない~」という同氏が考案されたコピーが添えられている。

 

この事業が開始された年から、無縁納骨数は減少した。相談支援を受けた方々が疎遠になっていた親族に連絡を取る切っ掛けにもなったという。担当する職員数は北見課長を含む3名。課長ご自身も相談業務を担当される。事業費は次の表のとおりで財源のハードルは無きに等しい。

予算 決算
平成27年度 22,000 7,428
平成28年度 103,000 59,400

 

この事業は「人生最後のボランティア」ともいわれる、無報酬・無条件の献体登録にも寄与している。身寄りの無い高齢者の場合「同意を得られる親族がいない」「解剖後の遺体の引き取り手がいない」「死亡情報が無い」といった理由で献体登録ができない場合があるが、この事業の実施により横須賀市と神奈川歯大が協定を結んだ。同大は「地元の献体希望者の申し出を断るのは心苦しかったので地域貢献になる」という。

目下の課題は事業の周知。町内会やサークル向けの講演や女性の口コミを期待しているとのこと。周知パンフレットに職員が作成した漫画を掲載し、分かり易い説明に注力しているという。

 

 

6.所見

「孤独死」「下流老人」といった言葉をよく目にするようになった。団塊の世代が命を全うする時代が迫っている。いわゆる「大量死時代」の到来である。同事業は行政が終活支援を行うといった国内でも稀有な取り組みである。マスコミに複数回取り上げられたこともあり、他自治体の議会視察が相次いでいる。現在は同県の大和市でも事業化された。大村市での事業化については、当市の状況を調査しなければならないが、孤独死は散見されており、今後増加するという状況は変わらないだろう。

 

命は平等である。しかし人生最期の姿はそれぞれ違う。病魔や事業の失敗、無年金等、多種多様な要因により生活困窮に陥り、図らずも社会的弱者となる可能性は万人にある。この世に生を受け、社会の一員として働き、それぞれの人生を送ったあと、ひとり孤独に命を閉じる社会が、幸せな社会と言えるだろうか。

同事業に財源やマンパワーのハードルは皆無である。そして、何より社会的弱者を救済するのは行政の使命、存在意義でもある。貧しくも心穏やかに生を全うできる社会を目指すうえで、導入を検討する必要がある。

 

平成23年、有権者の皆様より大村市議会に議席を賜り、全国津々浦々、様々な先進地視察に赴いた。多様な事例や政策を学ばせて頂き、知見政見を広げることができたのは勿論のこと、他の自治体職員や議員同士の議論は政策立案に大いに役立った。

 

今回の視察にて「死の尊厳」について改めて考えさせられ、最後の先進地視察報告に相応しい重厚なテーマとなった。この経験を政治活動に反映させ、明るい豊かな社会づくりに邁進する決意を新たにしたところである。

末筆ながら、議会事務局スタッフの皆様には、私の議会活動に微に入り細を穿ったお支えを頂いたことに心から御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。感謝。

 

[1] (英: living will)とは、生前の意思という意味の英語の音訳。 生前に行われる尊厳死に対してであれば「尊厳死の権利を主張して、延命治療の打ち切りを希望する」などといった意思表示のこと。 またそれを記録した「遺言書」などのこと。

[2] (英: corporate social responsibility、略称:CSR)企業の社会的責任。企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的(ボランタリー)に社会に貢献する責任のこと。